森祇晶が語った野村克也氏との史上最高の日本シリーズ「個人的な戦いだった」 (4ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

【勝敗を忘れた「監督同士の戦い」】

 そして、ワンボールツーストライクからの6球目、マウンド上の岡林が投じたカーブが真ん中に入った。打席に入る時に石毛宏典から授けられたアドバイスどおり、石井は「当てる」のではなく、「ぶつける」スイングで白球をとらえた。

 この時、神宮球場ではセンターからホーム、レフトからライトへと風が舞っていた。打者は打撃に自信のない石井だ。センターの飯田哲也は俊足で守備範囲が広く、極端な前進守備を敷いていた。石井の打球はぐんぐん伸びていく。しかし、名手の飯田は確実にボールをとらえていた。左手を大きく伸ばす。白球が落ちてくる。

 その瞬間――。

 両軍ベンチ、そして3万4101人の大観衆は信じられないプレーを目撃する。飯田が差し伸べたグラブから白球がこぼれ落ちた。本当に信じられないプレーだった。こうして西武は1-1の同点に追いついた。その後、石井も岡林も最後まで投げ切ったが、延長10回で試合を制したのは西武だった。2-1、わずか1点の差で明暗がわかれることになった。

「先ほども言いましたが、あの2年間の戦いは、どちらかが手を打って相手が我慢するといった、戦いの面白さがあった。それは、ほかのシリーズではなかったですね。2年連続で4勝3敗。でも、久々に勝敗を忘れた『監督同士の戦い』だったな......」

 そして、森は再び「あの場面」を口にする。

「......野村さんも僕も、お互いが野球を知り尽くした者同士。用兵にしても、采配にしても、すべてが読み合いなんだね。『ここでピッチャーを代えてくるだろう』と思ったら、野村さんは動かない。こちらが誘い出そうとしても、まったく乗ってこない。だから僕も我慢して動かない。その好例があの第7戦ですよ」

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