森祇晶が語った野村克也氏との史上最高の日本シリーズ「個人的な戦いだった」 (3ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

西武を8回のリーグ優勝、6回の日本一に導いた森氏 photo by Hasegawa Shoichi西武を8回のリーグ優勝、6回の日本一に導いた森氏 photo by Hasegawa Shoichi この試合の最大のポイントは、ヤクルトが1-0でリードして迎えた7回表に訪れた。同点に追いつきたい西武の攻撃は2死一、二塁。打者は投手の石井だった。

野村は思う。
(石井に代打を送ってくれ......)
森は思う。
(石井に代打は送れない......)

 野村にとって、石井が降板しさえすれば代打は誰でもよかった。しかし、森は動かない。森にとって、ここはどうしても同点に追いつきたい場面だった。そのためには代打を送るしかない。

同時に、森は思う。
(岡林を代えてくれ......)
野村は思う。
(岡林は絶対に代えられない......)

 森にとって、好投を続ける岡林をマウンドから引きずり降ろすことができれば、次の投手は誰でもよかった。しかし、野村は動かない。ヤクルトには岡林以上に頼れるピッチャーはいなかった。森が振り返る。

「打席に入った石井は、西武投手陣の中でもバッティングが得意なほうではありませんでした。1点負けていて、代打を送るべきケースだったかもしれない。でも、うちには石井以上の投手がいなかった。石井を代えるわけにはいかなかったんです。

 ここで点を取れなくても、次の回は一番の辻(発彦・「辻」は本来1点しんにょう)から始まる。そんな思いもありました。同時に、『もしこの試合に負けたら、なぜ、石井に代打を出さなかったのか、と大いに叩かれるだろう』という思いもありました。それでも、ここは動けない。動くべきではない。それが私の判断でした」

 両監督の思惑が複雑に絡み合ったまま、試合は進んでいた――。

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