中日優勝のキーマンは柳裕也か。
必殺カーブに打者が翻弄される理由

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Koike Yoshihiro

 秋のリーグ戦で5勝0敗、防御率1.64でリーグ戦連覇に貢献。早稲田大戦で延長12回を投げて20三振を奪った試合は、今も鮮烈な記憶として残っている。大学4年間で通算338奪三振という圧巻の成績を残し、堂々のドラフト1位で中日に入団した。

 柳という投手がこれほど三振を奪えた理由は、タテのカーブだった。ネット裏で見ていると、六大学の強打者たちがカーブに翻弄され、自分のバッティングをさせてもらえない。表示速度は110キロ前後なのに、打者のバットはおもしろいように空を切っていた。

 いつも「なぜだろう......」と思いながら見ていたのだが、実際に柳のボールを受けてみて、その謎が解けた。

 とにかくカーブが速く思えるのだ。感覚的には145キロのストレートよりも速かった。ピッチングを見ていた善波達也監督(当時)に「柳くんのカーブ、真っすぐより速いですね」と言うと、「それがアイツの持ち味なんですよ」と笑顔で返ってきた。

 話をしても、決して気負って声を張るようなことはなく、いつも淡々と穏やかな表情で語ってくる。横浜高、明治大という名門で、サバイバルを勝ち抜いて「エース」の座をつかみ取った人物にはとても思えなかった。そんな素朴な感想をぶつけたら、こんな答えが返ってきた。

「自分、田舎育ちなんで......」

 柳は中学まで、宮崎県都城市で生まれ育った。以前、柳が通っていたという中学校を訪れたことがあったが、のどかで穏やかな風景は、柳の人柄そのものに思えた。

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 だがマウンドに上がると、闘争本能むき出しで打者に向かってくる。なにより、生命線ともいえるタテのカーブの迫力と精度は、学生時代から一級品だった。

 ところが、昨年のピッチングを見て思ったことが、カーブの少なさだ。必殺球と呼べるボールであるにもかかわらず、頻度が少ないのだ。

 140キロ台前半のストレートとカットボールを軸にして、スライダー、チェンジアップ、そしてカーブを時折混ぜて勝負していく。たしかにカットボールは便利なボールだ。コントロールをつけやすいと聞くし、バットの芯を外すには有効な球である。多くの投手がマスターしたがる気持ちも頷ける。

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