元楽天監督・平石洋介がソフトバンクコーチになって見た常勝の「土壌」 (3ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Sankei Visual

 ほかの選手もアプローチは違えど、寡黙な長谷川や中村も率先して若手選手にアドバイスを送り、柳田にしてもミスをした後輩に「ヘコむな。思い切ってやればいいっしょ!」と背中を押す。

「柳田なら、若手時代に伸び伸びプレーさせてもらえたからそう言えたり。経験のある選手が言うべきことをわかっているんです」

 こういった土壌が揺るがないのがソフトバンクなのだと、平石は唸る。だからこそ、懸念も拭えないのだという。

 次代を担う存在として、今年12年目を迎える今宮健太は、彼らの意志を継ぐ者としての自覚がうかがえる。しかし、さらに下の世代となると、まだ適任が見当たらない。そこで、後継者として平石が白羽の矢を立てた選手が、24歳の栗原陵矢である。

 本来は捕手だが、昨季は打撃を生かすためにファーストと外野を中心に出場し、プロ6年目で初の規定打席に到達。17本塁打と持ち味を見せ、日本シリーズではMVP獲得と、大ブレイクを果たした強打者である。

 その期待の若手に、平石はこう促している。

「まだ試合をこなすので精一杯かもしれないけど、今のおまえはそれが当たり前。ただ、これから本当の意味でレギュラーとしてチームを引っ張っていくために、今、経験のある選手の振る舞いをしっかり見とけ。そこから、自分にできることを実践していこう」

 栗原は、平石がソフトバンクのユニフォームに初めて袖を通した2019年秋のキャンプで、"ひとめぼれ"した選手だった。「ものが違う」と確信したという。

 構えた雰囲気、バットを振る力にタイミングの取り方、スイングの軌道......。楽天の指導者時代から個人名を出すことを嫌う平石が、意図的にメディアで栗原の名を連呼したのは、「絶対に一軍の舞台で結果を出せ」と、本人に知らせる狙いもあったのだという。

 結果を見れば栗原の飛躍は明確だが、平石は「毎日練習につき合ったくらいで、大したことはしてないですよ」と謙遜する。

 仮にそうだとしても、平石は栗原をはじめとする選手たちが、良好な状態でグラウンドに立てるよう、舞台を整えるために力を尽くしたのは間違いない。極端に言うならば、そのためなら監督であろうとも戦ったのである。

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