鈴木翔太は阪神で再生なるか。
8年前に見た驚きのピッチング

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Sankei Visual

 中日の2013年のドラフト1位投手、鈴木翔太が今季から阪神でプレーすることになった。入団時の背番号が「18」だったことからもわかるように、「将来のエース候補」として大きな期待を背負っていた。しかし故障が続き、2017年にようやく一軍で5勝を挙げたが、その翌年に右腕の血行障害で手術。何度も「これまでか......」と思ったが、昨シーズン終了後に戦力外通告を受けた。

 ただ、鈴木は万全の体でプロの強打者と勝負して敗れたわけじゃない。それだけに「このままでは終われない」という思いはあったはずだ。だから育成契約とはいえ、まだ勝負できるチャンスがあるだけでもよかったなと思う。

中日から戦力外を受けたが、阪神と育成契約を結んだ鈴木翔太中日から戦力外を受けたが、阪神と育成契約を結んだ鈴木翔太 鈴木の球を受けたことはないが、彼のピッチングは高校時代に何度も見ている。しかも、初めて見た時に鮮烈な印象を受けた。

 8年前の5月、ある雑誌の取材で当時、三重中京大4年だった則本昂大(楽天)の球を受けるため三重に行った。思いのほか取材が早く終わり、どうしようかなと思っていたら、同行していたカメラマンが「静岡に則本みたいなピッチャーがいるんですけど、行ってみませんか」と提案してくれた。

 彼は静岡の高校野球に精通しており、膨大な数の選手を知り尽くしている。そんな彼が推薦する選手なのだから、きっとすばらしい投手なんだろうという予感はあった。しかも学校が「聖隷クリストファー」とあまり聞きなれない名前だったので、ますます興味が沸いた。

 学校に到着し、鈴木のピッチングを見て驚愕した。「則本が投げていた真っすぐと同じじゃないか......」。とにかくボールの勢い、キレは高校生のレベルをはるかに凌駕していた。

 室内のブルペンだから速く見えたこともあるが、それを差し引いても一級品のボールだった。球持ちがよく、打者寄りのポイントでボールを放している。おそらく打者の体感スピードは、実際の表示球速よりも5キロから10キロは速いはずだ。

 投球フォームに変なクセもなく、とにかく柔らかい。そこから強烈な腕の振りでボールを投げ込むから、ストレートはもちろん、フォークもいい落ち方をする。間違いなく全国トップクラスの投手だった。

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