大久保博元が語る西武で巨漢打者が育つワケ。ドラ1渡部に「減量は必要ない」 (2ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Sankei Visual

 とにかく運動量を求められるが、動けば腹が減り、カロリーを消費した分だけ食べる。一向に体重は減らなかった。

 そこで3年目になり、減量要求が厳しさを増した。体重計に乗り、1カ月ごとにノルマを設定される。たとえば105キロあったら、最初の1か月で100キロまで落とさなければならない。目標に達しなかったら、罰金を課せられた。

 動けば腹が減り、空腹を満たすためにとりあえず食べる。そしてすぐに吐いた。下剤を飲み、下からも出す。体重は87キロまで減ったが、打者として失ったものも大きかった。

「見事にボールは飛ばなくなっていきました。最後、体重がなくなっちゃうんじゃねえかと思いましたよ(笑)」

 西武の打撃コーチ就任を要請された際、こうした思いを後輩にさせたくなかった。加えて根底にあった考えが、野球は科学的に取り組むべきだということだ。

 現役引退後、ゴルフのティーチングプロの講義を受講した際、印象に残った話がある。「なぜ、小さい選手でもボールを遠くに飛ばすことができるのか。その答えは科学にある」というものだ。そう話した筑波大学の教授に連絡を取り、個人的に教えを受けにいった。

「簡単に言えば、"太っている、痩せている"ということより、人が健康になるポイントはほかにある。人間は細胞を60兆個持っているとされるなか、いかにいい血液を送っていくか。そのほうが大事なんです」

 太っていることは、本当に野球選手にとってよくないのか。大久保氏が現役の頃、医学的に証明されていたわけではない。根拠もなく「痩せろ」と命じられ、キャリア前半は苦しんだ。そうして自身の持ち味が消され、西武の二軍で埋もれた。

 大久保氏は動作解析を学び、ボールを遠くに飛ばすためには「重さ」「長さ」「入射角」など条件がいくつかあることを知った。たとえば柳田悠岐(ソフトバンク)のように高身長(188センチ)でない選手は、ほかの"何か"で補なう必要がある。

「長さは足りないから、重さで補っていくわけです。僕らデブは、重さを出力に変えていく。痩せたら元も子もないわけです。あとは、いかにいい角度でバットをボールに入れていくか」

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