西武ドラ1・渡部健人のこだわり。フルスイングしない無心の境地 (3ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Nakajima Daisuke

 名門企業を中心に10社ほどオファーをもらっていたが、退路を断った。再び指名漏れした際の保険はつくらず、強い覚悟を固めた。

 直後、新型コロナウイルスの感染拡大で春季リーグが中止に。当初はアピール機会の喪失に不安を感じたが、すぐに頭を切り替えた。自分と向き合うには、これ以上ないチャンスだ。

 高校時代、渡部は家庭の事情で横浜商大高から日本ウェルネスに転校している。日本高校野球連盟の規則で1年間公式戦に出られなかったが、「自分を見つめ直し、技術をレベルアップできる期間」と前向きに捉えた。

 そして昨年、コロナ禍の自粛期間は課題克服にあてた。3年時の春と秋で、自分がやるべきことはわかっている。実家から歩いて数分の公園に行き、プロ志望の友人と一緒にランニング、キャッチボール、ティー打撃に打ち込んだ。

 どうすれば、長いスランプから脱出できるか。甲川氏から参考として勧められたのが、大田泰示(日本ハム)の左足の使い方だった。

「真上に上げて、真下に降ろすだけ。足を上げる目的はタイミングをとることです。左足が前に振れると、全体的に前への動きが大きくなり、ポイントが体に近くなります。それをなくすために、その場で回るという感じです。甲川さんから『おまえは全力で振らなくても飛ぶんだから』と言われて、中村剛也選手(西武)の力感のないスイングを見た時"これだな"と。その2つを自分のなかでうまくマッチングさせて、ああいう結果が出ました」

 約3カ月の自粛期間と夏の全体練習を経て、迎えた4年秋のリーグ戦では10試合で8本塁打。横浜市長杯争奪関東地区大学野球選手権では横浜スタジアムの上段にホームランを突き刺し、周囲の度肝を抜いた。

 高校時代の指名漏れから4年が経ち、ドラフト1位の評価を受けるまでに成長した。大学時代の紆余曲折を経て、最大の武器である打撃はいい方向にきている。

「心がけているのは80%のスイングです。そのほうが確率も上がって、勝手に飛ぶので。逆にヘッドも走りますしね。一番大事にしているのは、何も考えないことです。練習したとおりにスイングすれば、"行けるっしょ"という感じなので。あとはキレを出すために、試合前に必ず短距離ダッシュを入れていました。秋に打てたのはそのおかげもあると思います。トータルで言えば、バッティングで大事にしているのは"準備"です」

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る