「今の何?」スローカーブの名手・星野伸之が投じていたもうひとつの魔球 (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sankei Visual

 星野のカーブは変化が大きいぶん、コントロールするのが難しかったが、投げる時はこんなことを意識していた。

「右バッターの外角いっぱいのラインを目安にして、そこから曲げるように意識していました。だから、右バッターよりも左バッターのほうが投げにくかったですね。左バッターが打席に立つと、目安になるラインが見づらくなってしまうんです。どうしてもバッターの右肩が先に視界に入ってしまって......。それでアバウトな感じのまま投げると、肩口から入る甘いカーブになってしまい、よく痛打されました」

 その対策として考えたのが、左バッターにはまず直球を内角高めにきっちり投げることだった。

「その軌道を意識させるように考えました。だから、真っすぐが決まるかどうかで、カーブの出来も変わってきましたね」

 さらに、スローカーブを生かすためにプロに入って、高めのストライクゾーンを意識するようになったことも大きかった。

「当時ファームのコーチだった河村健一郎さんから『もっと高めを使え』と言われたのがきっかけでした。それまでは球が遅いので『低め、低め』って言われていたのが、高めも使っていいんだってことで心に余裕ができた。高めを磨くことで、カーブの曲げるポイントを覚えていったんです」

 そうして、星野のスローカーブは右、左に関係なくほとんどの打者に通用した。ただ、唯一例外のバッターがいた。

「落合(博満)さんだけは別格でした。オープン戦で打たれた一発は、今でもはっきり覚えています。『内角低めに決まった』と思った、自分にとっては最高のカーブを払うように打たれて。普通のバッターなら間違いなくファウルにしかならないコースだったのに......技術がずば抜けていましたね。

 引退したあとに落合さんと話す機会があったので聞いてみたら、『おまえとの対戦の時は真っすぐのタイミングでしか待っていなかった』って言われました。つまり、変化球を投げられてもなんとでもなるってことで、その言葉にあらためて『やっぱり違うわ』って思わされました」

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