馬原孝浩の引退理由の真実。体のケアのせいで「試合中に眠くなった」

  • 森大樹●取材・文 text by Mori Daiki
  • photo by Kyodo News

 それ以降、馬原は長く続くケガとの戦いの中であらゆる治療家やトレーナーに体を見せ、話を聞き、自ら解剖書を持ち歩いて勉強を重ねていく。現役選手として自分の体を使いながら、知識に基づく独自の理論と調整方法を確立していったのである。

 現在、馬原が指導するトレーナー理論「馬原メソッド」のベースはこの時に培われた。さらにその理論は、環境が変わったオリックス移籍後により大きな力を発揮することになる。独自の理論を新しいパーソナルトレーナーに習得させることで、劇的に体の状態がよくなったのだ。しかし、それは大きな代償を伴うものだった。

「肩を手術し、神経のケガまでやっている自分が、オリックス2年目の時は何ともない体になっていました。でも、それをトレーナーに習得してもらうには、休みなし、毎日5時間教えても3カ月かかるんです。試合開始時間も関係なく朝と試合後にマンツーマンでやるのでお互いに負荷がかかります。

 トレーナーが替わる度に教えていたわけですが、そのせいで試合中に眠くなってしまったことがあって......プロ選手としてこれはダメだと思いました。だから引退の理由は、"ケアに対する気疲れだった"というのが本音です」

 プロであり続けるためにやってきたことが、一番大切な試合に悪影響を及ぼすようになっていたのだ。

 自身が考えた理論であるがゆえ、やればやるほど自分が一番技術的にうまくなってしまうもどかしさと葛藤もあった。しかし体のケアは自分ひとりだけでは行なえないものも多く、馬原"選手"にとって、理論を理解したトレーナーの存在は必要不可欠だったのである。

 ならば、自分が探し求めるトレーナー像を自らが体現し、同じように苦しむ選手を支えようと、馬原は他球団からのオファーを蹴って2015年に現役を引退。トレーナー転身のために専門学校に通い、柔道整復師、鍼灸師の国家資格を取得している。

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