首位打者争い中の落合博満に八重樫幸雄はカマをかけた「何を投げてほしい?」

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

――打席内で、そんな会話を交わしていたんですか! それで、ピッチャーに「緩いボール」を要求したんですか?

八重樫 いや、投げさせなかった(笑)。僕が質問したのは、落合の人間性を見たかったからです。「タイトルがかかった場面ではどんな心境になるのかな」って。藁にもすがる思いなのか、何も気にせずに普段通りの心境なのか。そんなところを知りたかったんですよ。

 結局、この打席は凡打だったんだけど、この時「あの落合でさえも、タイトルがかかっていると、事前に球種を知りたいと思うんだな」と思ったんだよね。でも落合のことだから、本当は緩いボールを狙っていないで、こちらにカマをかけたけど、たまたま凡打になっただけなのかもしれないけど(笑)。

――結局、どうだったんでしょうね。

八重樫 ただひとつ言えることは、「緩いボールがいいです」と言いながら、対応は変化球待ちじゃなかった。ということは、口では「緩い球」と言いながら、本音では速球待ちだったのかもしれない。落合の性格の一端を見たような気がするよ。人の意見に左右されないというのは、のちの監督時代もそうだったよね。「落合」と聞くと、僕はこの場面を思い出すんだよね。

(第48回につづく)

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