高校球界に元プロ監督たちが急増。イチローが示した技術伝承の意義 (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

 2017年からは過疎化に悩む邑南町(おおなんちょう)からの依頼を受け、矢上の指導にあたっている。矢上に限らず、島根県の郡部は地元の生徒が減少しているため、国内留学制度「しまね留学」で県外から寮生を募っている。

 矢上は隣県・広島からの越境入学生も多く、地域の厚い支援を受けて2019年秋には島根県大会で優勝。今秋も県大会ベスト4に進出して中国大会に出場している。その実績が評価され、来春センバツの21世紀枠の中国地区推薦校に選ばれた。

 もし出場校に選ばれれば、あらためて山本監督の手腕と、元プロの高校野球監督が地域社会にもたらす影響力がクローズアップされるだろう。

 高校野球界には最新のトレーニング理論や技術論を学んでいる、勤勉な指導者も多い。だが、プロの世界でユニホームを着て、野球を生業として生活した体感は経験した者にしか語れない。

 最高峰の技術と経験を持つ者が、高みを目指す若者を教える行為が悪いことであるはずがない。スカウト行為につながる禁止事項を設けるなど細かなルールづくりは必要ながら、イチロー氏の指導が「特例」とならない状態こそプロ・アマ間の正常な関係といえるのではないだろうか。

 高校球界での元プロ監督の活躍は、そんな正常な関係を取り戻すための大いなる前進と言えるかもしれない。

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