2020.12.09

鉄人・衣笠から「割り箸を用意しろ」の助言。八重樫幸雄が感謝したこと

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

――かつてヤクルト時代にバッテリーを組んで、王さんに756号のホームランを喫した盟友ですね(笑)。

八重樫 鈴木さんのストレートはシュート回転するので、指を骨折しているときに対戦する投手じゃないんだよね(笑)。だから事前に「指を骨折しているので、できれば変化球を投げてほしい」と伝えていたんです。

――で、どうなったんですか?

八重樫 ずっとストレート(笑)。それで、シュート回転のボールを打ったら、手がしびれるようなファールになって。そのときのスイングが原因で、右手にガングリオン(こぶ)ができて、今もしこりが残ったままなんです。最初は柔らかかったんだけど、今はもう固くなったままなんだよね。

八重樫の右手には、こぶが残っている八重樫の右手には、こぶが残っている 【常に全力疾走を怠らない、山本浩二、衣笠祥雄】

――話は戻りますけど、最初に「衣笠さんに相談しよう」と思ったのは、誰かの勧めなんですか? それとも、八重樫さん自らの考えですか?

八重樫 自分の考えで行きました。最初に言ったように、話しかけやすい雰囲気の人だったから、特に緊張することもなく相談したら親切に教えてくれた。本当にいい人だったよ。

――打者としての衣笠さんの印象は?

八重樫 ボールから絶対に逃げない。これに尽きるんじゃないかな? あと、ものすごく感心したのは、当時はすでに主力選手になっていたし、大ベテランでもあったのに、常に一塁まで全力疾走していたことだね。普通、ベテランになるとそういうところで手を抜いたりするものなのに。衣笠さんがそういうプレーをしているから、若手も気が抜けない。チーム全体にいい影響を与えていたね。

――以前、元広島監督の阿南準郎さんに聞いたんですが、「カープはとにかく全力疾走を徹底させていた」と言っていました。たとえ平凡なゴロであっても、全力疾走することで、相手野手に無言のプレッシャーをかけられる。それによって相手を慌てさせ、ボールをはじいたり悪送球を誘発したい。そんなことを言っていました。

八重樫 まさに、カープの野球がそういう野球だったな。その代表が衣笠さんだったとも言えますよね。内野手からすると、ボールが飛んできて処理するときに、「大体、打者走者はこの辺を走っているだろう」と思うわけです。でも、自分が思っていたよりも、多少なりとも前にいると、それは当然焦ると思いますよ。そういう点がカープの強さだったし、今でも受け継がれている伝統なんだよね。それを浩二さん、衣笠さんのようなベテランが率先してやっていた。それが広島の強さの秘密だったと思います。

(第45回につづく)

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