低身長をも武器にする。「小さな大投手」たちがプロで輝ける理由 (3ページ目)

  • 白鳥純一●取材・文 text by Shiratori Junichi
  • photo by Kyodo News

 クローザーは長身の速球派投手が務めることが多いが、そこで武田が活躍できた背景には、低身長を逆手に取った投球術があった。リリース時に、右投手の軸足となる右足の膝がマウンドの地面につくほど沈み込むフォームは、他の投手にはない"角度"を生んだ。それによって浮き上がるようなストレートと、シュートやスライダーなどの変化球を操り、アウトを積み重ねたのだ。

 武田久の成功は、後に続く「低身長の投手」たちの指針になる。ロッテの169cm右腕・美馬学は、藤代高校時代は最速130キロ台の目立たない投手だったが、中央大学に進学してから肉体改造に取り組んだ。武田のフォームを参考に下半身の筋肉を鍛え、スリークォーターのフォームから斜めの軌道を描くボールを投げるように心がけたという。

 結果として社会人野球の東京ガスでは最速152キロを誇る投手になり、2010年のドラフト2位で楽天に入団。2013年には日本シリーズMVPに輝くなど、チーム初の日本一に貢献した。FAでロッテに移籍した今シーズンは、ソフトバンクを相手に5勝(1敗)を挙げるなど10勝4敗と大きな貯金を作り、チームは2位とCS進出に貢献した。

 角度を出すために工夫を凝らしているのは、中日のベテラン右腕・谷元圭介も同様だ。

 日本ハム時代の2016年に28ホールドを記録し、日本シリーズでは胴上げ投手になった。2017年シーズン途中に金銭トレードで中日に移籍したあとも中継ぎとして活躍を続け、今シーズンも36試合に登板。8年ぶりにAクラス入りを果たしたチームを支えた。

 ヤクルトの石川と同じ167cmの谷元の球速は140キロ台中盤だが、手元でホップするようなストレートを武器に三振の山を築いた。現在のピッチングスタイルを志したのは、「高めに投げろ」という大学時代の監督からの助言がきっかけだったという。低いリリースポイントで投げるために、体幹や下半身の強化にも積極的に励んだ結果が、プロ野球で成功につながった。

 今回取り上げた選手以外にも、172cmの山岡泰輔(オリックス)や嘉弥真新也(ソフトバンク)、170cmの東克樹(横浜DeNA)など、小柄な投手たちが多く活躍している。身長のハンデを乗り越えるための取り組みからは、選手それぞれの考えや個性が垣間見える。これらに目を向けると、また違ったプロ野球の楽しみ方が見つかるかもしれない。

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