長谷川勇也のヘッスラに見たホークスと巨人、勝者のメンタリティの違い (3ページ目)

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • photo by Kyodo News

 このシリーズで何度か送球ミスを犯した吉川だったが、この場面では一塁へ素早く正確なボールを送った。長谷川は全力疾走の勢いのまま頭から突っ込んだ。

 判定はアウト。わずかの差で送球のほうが早かった。沸き立つ巨人ベンチとG党たち。ただ、まだ球場中の視線が集まっていた一塁ベースの少し先で、長谷川はしゃがみ込んだまま体を震わせて悔しがっていた。

シリーズ第3戦で気迫のヘッドスライディングを見せたソフトバンク長谷川勇也シリーズ第3戦で気迫のヘッドスライディングを見せたソフトバンク長谷川勇也 その瞬間「ドスン」という音が聞こえた。筆者はバックネット裏の最前列という良席で観戦していたのだが、少なくとも長谷川までの距離は30m以上あったはずだ。しかもスタンドはざわついていた。それでも、長谷川が悔しさのあまり右手でグラウンドを叩きつけた音ははっきりと耳に届いた。

 その姿に地元・福岡のソフトバンクファンは心打たれた。7回表の攻撃が始まるところなので巨人の球団歌『闘魂こめて』が流れだしたが、それをかき消すほどの大きな拍手がPayPayドームを包み込んだ。

 この試合で唯一、巨人に流れがいきそうになった場面。それを食い止めたのが長谷川の気迫であり、ソフトバンクファンだった。

 長谷川は前述したように走塁中にケガを負った選手である。野球人生に狂いが生じたといっても過言ではない。そんな選手が、そしてあれだけのベテランがひとつのプレーに全集中を注ぐ。勝利を使命とし、勝つために何が必要なのか──ソフトバンクはそれを全員が理解し、実行しているように見えた。

 ソフトバンクに息づく勝利のメンタリティ。南海、ダイエーと長かった低迷期を脱出した1999年以降のチームから代々継承されてきたものだ。

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 工藤公康監督は日本一決定後の記者会見でこのような話をしていた。

「ホークスは、王会長が強いチームにしたいという思いでつくられたチーム。それを秋山(幸二)監督、そして私と受け継いできたつもりです」

 ソフトバンクの強さの理由は、王イズムの浸透だ。ただ、ふと思う。その源流は巨人だ。V9というプロ野球史に燦然と輝くあの当時の巨人に息づいていた魂を、王会長はホークスに持ち込み、伝えたのだ。

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