森VS野村、投手交代の心理戦。史上最高の日本シリーズは「不動」が策だった (4ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

「先ほども言いましたが、あの2年間の戦いは、どちらかが手を打って相手が我慢するといった、戦いの面白さがあった。それは、ほかのシリーズではなかったですね。2年連続で4勝3敗。でも、久々に勝敗を忘れた『監督同士の戦い』だったな......」

 そして、森は再び「あの場面」を口にする。

「......野村さんも僕も、お互いが野球を知り尽くした者同士。用兵にしても、采配にしても、すべてが読み合いなんだね。『ここでピッチャーを代えてくるだろう』と思ったら、野村さんは動かない。こちらが誘い出そうとしても、まったく乗ってこない。だから僕も我慢して動かない。その好例があの第7戦ですよ」

 つらく厳しい戦いだった。しかし、森には今でも野村との激闘は「楽しかった」という記憶が強く刻まれている。

「あれだけ死力を尽くした戦いは、ヤクルトとの日本シリーズだけでした。勝負というのは、力が互角であればあとは"時の運"ですよ。後手に回ればやられる。かといって先手、先手で勝負すれば相手の術中にハマることもある。本当に大変だった。でも、本当に楽しかった。野村監督との戦いだったから可能になったんです」

 お互いに力を認め合った者同士の敬意と畏怖。盟友への敬意がそこにあった――。

(第7回につづく)

■長谷川晶一 著
総勢50名の証言で紐解く史上最高の日本シリーズ
『詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)詳細はこちら>>

4 / 4

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る