周東佑京「バッティングを捨てたくない」。世界記録達成まで苦しんでいたこと (3ページ目)

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • photo by Kyodo News

 盗塁を決めるには、まず出塁しないことには何も始まらない。打撃の向上も盗塁数が増えた大きな要因だ。8月終了時点で打率.208だったのが、10月終了時点で.271まで上昇した。9月の月間打率は.307(出塁率.346)、10月は打率.306(出塁率.353)と好成績を残した。

 昨シーズンは打席数が少なかったとはいえ、打率.196と振るわなかった。打率を見れば急激なレベルアップだが、突然技術が高くなったわけではない。打撃部門を担当する立花義家コーチや平石洋介コーチに教わりながらコツコツと積み上げてきたものだが、周東が強くこだわったのは強い打球を打つためにバットを振り切ることだった。

赤星憲広が「神走塁」の3人を比較>>

 それを見た周囲の人間は「あれだけの足があるのだから、バントをするなり、反対方向に転がせばいいのに」と眉をひそめたが、周東は己の考えを貫いた。

「いつか足で勝負できなくなる時が来るかもしれない。長く野球をやるために、今からバッティングを捨てるようなことはしたくないんです」

 公式戦の勝負どころでは時折セーフティバントを見せることはあったが、開幕一軍を争っていた春季キャンプやオープン戦、練習試合の期間は、頑なに力強くバットを振り続けた。

 ここ数年、ソフトバンクは1番打者を固定できなかった。昨シーズン、チームの1番打者のトータルの打率は.218(出塁率.266)しかなかった。今季も序盤戦はほとんど改善が見られなかったが、周東の台頭により"1番打者問題"は一気に解消された。

 3年ぶりにリーグ優勝を果たしたソフトバンク。終わってみれば2位以下を大きく引き離したシーズンとなったが、10月9日の時点では2位のロッテにゲーム差0、勝率わずか1厘差まで迫られた。しかし、その翌日から怒涛の12連勝を飾り、Vロードを一気に駆け抜けた。周東の連続試合盗塁記録は、その最中に始まった。

 シーズントータルで考えれば厳しいが、もし終盤戦だけでMVPを選ぶなら、周東がその筆頭候補に挙がるのは間違いない。

 足のスペシャリストから不動の1番打者となった周東の次なる目標は、日本シリーズ4連覇である。

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