アキレス腱断裂で「一発必中の精神」へ。門田博光は鳥肌を立てて打席で集中した

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sankei Visual

ホームランに憑かれた男〜孤高の奇才・門田博光伝
第4回

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 山間の町で緑に囲まれて暮らす門田博光にとって、日々の楽しみのひとつに庭にやって来る生き物たちとの交流がある。ウグイス、ヒヨドリ、シジュウカラ、カラス、ネコ、タヌキ......。ただ餌を与えるだけでなく、会話を含めたコニュニケーションを楽しんでいる様子をいつも楽しげに伝えてくる。

「寒い時はタヌキの親子がよう餌もらいに来るんや。はじめは警戒しとったけど、このオッサンなら大丈夫やと思うたんか、警戒心も緩めてな。オレが足悪くて早う歩かれへんのもわかったんやろう。1.5メートルぐらいまでやったら近づいても美味しそうに食べとるわ。

1979年のキャンプでアキレス腱を断裂した門田博光1979年のキャンプでアキレス腱を断裂した門田博光 前は窓を開けて寝とったら、スズメが起こしに来るんや。多分、『オッサン死んだんちゃうか』って心配してくれたんやろうな。そばに来てピーピー、ピーピー鳴くから『やかましいわ!』ってなりそうになるけど、でもまあ、かわいいもんや」

 ほかにも現役時代から引っ越しを重ねても、そのたびに追いかけてきたというヒヨドリの話。捨てネコたちとの交流話。ウグイスの鳴き声を5種類使い分けられるようになり"仲間"を呼び寄せたという話......。勝負の世界に身を置いていた時は人を寄せつけないオーラを放っていた門田だが、じつはロマンチストで寂しがり屋。根は優しさを秘め、動物たちとノンストレスで触れ合う姿はいかにも門田らしい。

 家の中ではつけっぱなしのテレビに向かい「どないなっとるねん」「何を言うとるんや」とぼやき、たまに競馬を楽しむ。

 夜になればプロ野球中継を見て、「こんな箸みたいなバットで何がホームランや......」と嘆くことも多い。それでも1日は長く、しばしば時間を持て余す。

 そんな時、ふと自身の昔の映像を見ることがある。ファンが編集したというオリジナルDVD「門田博光ホームラン集」だ。部屋でひとり、当時の映像に見入る姿は"ホームランに憑かれた男"の孤独を色濃く反映している。

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