2020.09.28

「獲らしてください」とノムさんに直訴、
プロ野球初代セーブ王が誕生

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki

         
 早速、取材を申し込むと、佐藤さんが経営する会員制スナック『野球小僧』で話を聞けることになった。お店は東京・目黒区の私鉄沿線にあり、最寄り駅から電話を入れると2分も歩かないうちに路上で待つ佐藤さんに出会えた。資料に〈181cm〉とあるとおりの長身で、太い横縞のラガーシャツに包まれた上体が分厚いぶん、黒のジーンズを穿いた脚は長く細く見える。

 64歳という年齢を感じさせるのは日焼けした顔に刻まれた皺(しわ)だけで、大きな鷲鼻が通った風貌には迫力を感じる。ある文献で〈現役時代は喧嘩っぱやい暴れん坊〉と紹介されていたことが思い出された。

 ビル2階の店内にはカウンターとテーブル席があって、満席になれば20人ほど入れるだろうか。店名が『野球小僧』だけに、天井には南海の球団旗、壁には現役時代やコーチ時代の写真などに加え、野球雑誌の記事も掲げてある。さらに入り口脇の壁には、佐藤さんが獲得したタイトルのペナントが6枚、額縁に収められ整然と並んでいて壮観だ。

「地方遠征に行ったときに何回か、『野球小僧』って店を見たんですよ。スナック。それでオレも辞めて店やるなら、そのネーミングがいいなあと思ってて」

 しーんとしていた店内に、張りのある声が響いた。ややしゃがれて、ときに巻き舌っぽくなる口調は江戸っ子のように威勢がいい。フロアに立ったまま自然に会話が始まり、そのまま名刺交換を終えたあとも、僕は"野球濃度"が高い店内を見渡した。

 戦前の巨人で活躍した日本プロ野球初の三冠王、中島治康の息子さんも「会員」ということで、中島と沢村栄治が2人で並んだ写真もあれば、長嶋茂雄と長嶋以前の巨人歴代監督が勢ぞろいした写真まであって驚く。佐藤さんはそれら一枚一枚の由来を丁寧に説明しながら、カウンターで飲み物を用意してくれていた。

「どうぞ、座って、飲んでください。焼酎は入ってないですけど」

 カラカラと氷が鳴って、烏龍茶がテーブルに置かれた。佐藤さんもソファに腰かけると、壁のペナントに視線を送って言った。