なぜ神宮球場で呑むビールはうまいのか。「売り子」あるあるとゲン担ぎの飲み方 (2ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • photo by Sankei Visual

 これは、個人的な「苦い経験」から生まれた習慣だ。ある年、ふとした思いつきで「今年はこの売り子さんからビールを買い続けよう」と決めたことがあった。笑顔のステキな特定のAさんから徹底的にビールを買い続けることにしたのだ。毎試合、何杯も買っていれば自然と顔なじみになる。

 ひと言、ふた言、会話を交わしているうちに、次第にAさんが僕の横を通るたびに軽く会釈をするようになった。それはなかなか悪くない気持ちだった。しかし、その視線はいつも僕の手元に注がれている。そうなのだ。彼女は「ビールの残量チェック」をしているのだ。元来のええかっこしいの性分のせいなのか、それに気づいてからは残りを一気に飲み干してお代わりを頼むようになった。

 正直言えば、「もう呑みたくないなぁ」とか、「手元のお金が寂しいなぁ」という時にも、「武士は食わねど高楊枝」の心意気でお代わりを頼んでしまうのである。武士でもないのに。また、その売り子さんの姿が見当たらず、別のコから買った時にAさんが登場すると、まるで浮気の現場を見つかったかのように後ろめたい気持ちになったことも何度もある。

 こうした煩わしさに懲りたため、翌年以降は特定の売り子さんに偏ることなく、身近にいるK社の売り子さんから購入して事なきを得ているのだ。

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【ビールの売り子さんにまつわるゲン担ぎ】

 ビールを呑みながら、さまざまなゲンを担ぐこともある。貧打線が続き、なかなか点が取れない時には、「今日は点を取るまで一杯も呑まない」と決め、結局試合終了まで一杯も呑めなかったこともある。蒸し暑い夏の夜だった。体中の水分が蒸発したかのような、生き地獄のようなカラカラの一夜だった。

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