熟男じゃなくて熟夫・川﨑宗則の再出発
「息子にはこれからの俺を見てほしい」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sportiva

 川﨑は小学校1年生になった長男の逸将くんとよくキャッチボールをする。夜のランニングにも連れていく。回数を決めてカベ当てをすれば、知らないうちに上手くなっていて驚かされる。

 誰が一番うまいかと訊けば、逸将くんは『イチローさん、2番はボク、3番はパパ』と答える。すかさずパパが『野球の神様はおれだぞ』と言えば、『野球の神様はイチローさんでしょ、パパではない』と素っ気ない(笑)。

 最近、近所の小学校3年生の友だちがいる少年野球チームに体験で参加させてみたら、1年生なのに夜ランのおかげで体力もあるし、カベ当ての成果かショートゴロもアウトにできた。すっかりその気になってサッカーをやめて野球をやりたいと言い出した息子に、川﨑が「今はステイさせてる(笑)」状態なのだという。

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「逸将はおれのツレみたいになってますからね。もう、あいつのほうがしっかりしてるところもある。子どもでもひとりの人間だし、おれはそういう接し方をしてきました。お互い、この先にはいっぱい試練もあるし、楽しいこともある。家族である以上、絆があるし、そこを一緒に乗り越えていけたらいいなと思っています。だから野球でもサッカーでも、音楽でもいい。彼がやりたいと思ったことをやってくれれば、おれは全力で応援するんです」

 若くて、バリバリの第一線でプレーして、身体も思うように動くカッコいい時期には子どもがまだ小さい。やがて子どもが成長して記憶に残るような年齢になると、親父のほうは晩年と言われる時期に差し掛かってしまう。プロ野球選手を職業とする親父の、哀しき宿命である。そんな宿命に抗い、川﨑は今も現役にこだわる。

「だって、そもそも引退って何なの。メジャーでもマイナーでも、NPBでも独立リーグでも台湾でも草野球でも、野球はできる。だったら引退なんてしなくていいし、何が引退なのかがわからない。今も携帯がピーンと鳴って、『明日、何時からプレイボールだよ』ってメッセージが来たら、『はいよ』って試合へ行く。バッグ持って、ピッピッと行って、ボールで遊ぶ。プレイボールなんだから、ボールで遊べってことでしょ。ボールを追いかけて、ボールで遊べばいい。

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