年俸87%ダウンからの大逆襲。巨人・中島宏之「38歳の復活劇」を語る (2ページ目)

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • photo by Kyodo News

 走るにしても、単純に量をこなすわけではなく、バランスを整えるのか、それとも短距離を中心に目一杯ダッシュを繰り返すのか、その日の体調やいま必要なことを照らし合わせながら取り組んでいる。

 若い頃から天才肌に映る彼だが、じつは繊細な男だ。だからこそ、昨年の大不振では心をズタズタに引き裂かれたのではないかと、ずっと気になっていた。

「誤解してほしくないのですが、苦しいと思ったことはなかったんですよね。去年の今頃はファームにいて、若い選手らと一緒にやっていました。彼らがどうやったらうまくなるのかともがいているのと同じように、僕もああでもない、こうでもないと考えながらやっていました。毎日『うまくなりたい』『こうすればうまくなるんじゃないか』と。

 そして『よし、やったろう』という気持ちになる。それを楽しむと言ったら語弊があるけど、僕はずっと前を向いていました。とにかく、まだうまくなりたいっていうのが強いから。打つのも、守るのも、走るのも。もしかしたら、まだ走るのが速くなるんちゃうかなって、自分に期待していますからね」

 巨人移籍初年度の昨年は、43試合出場でわずか8安打、打率.148、1本塁打、5打点と惨憺たる成績だった。昨オフの契約更改では、1億5000万円から野手史上最大の87%ダウンとなる年俸2000万円の提示にも黙って頷くしかなかった。

 昨年のプレーを振り返るなかで、どこか小手先になっていたことにも気づいた。

「自分のなかでは目一杯の力を振り絞ってやっているつもりでも、うまいこと体を操れないことで、自分が培ってきた技術でカバーをしてやろうとしていた。それが逆効果で、ピッチャーに向かっていけずに受け身になってしまったのかなと思います」

 そこで、特徴的ともいえる打撃フォームにもメスを入れた。高く構えた位置から今年は随分と下げている。

「アメリカで自主トレをした時に、どこで構えて、どのようにバットを出したら効率的に力が伝わるのかを、映像を見ながら自分の考えと照らし合わせて分析しました。結局、高く構えていた時でも、打つ前には低いところに持っていっていたんですよね」

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