怖いもの知らずが招いた協約違反。根本陸夫の立場は危うくなっていった

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Sankei Visual

無料会員限定記事

根本陸夫外伝〜証言で綴る「球界の革命児」の知られざる真実
連載第15回
証言者・島田正博(3)

前回の記事はこちら>>

 時代が昭和から平成に移り変わった頃。当時あった西武第三球場で事件が起きかけていた。球団管理部長の根本陸夫が、いきなり「ここで高校生を見る」と言い出したのだ。準備するよう命じられた二軍マネージャーの島田正博は、当然ながら驚き慌てた。

 同じ敷地内にある本球場での一軍公式戦開催日。マスコミも数多く集まっているだけに、いつ規定違反が知れ渡ってもおかしくない。

 プロ・アマの関係がよくなりかけていた時期、そんな不祥事は絶対に起こしたくない。根本を「オヤジ」と呼んで慕った島田も理解に苦しみ、「やめてくれ」と泣いてすがった。いったい、背景には何があったのか──。島田に聞いた。

球団管理部長として西武の黄金期を築いた根本陸夫球団管理部長として西武の黄金期を築いた根本陸夫「オヤジには『オレが新聞記者に言えば、書きはせん』と返されました。怖いもの知らずだから平気なんですよ。それでもう泣きながら、『今は時代が違うんです』と言わせてもらいました。そしたら聞いてくれて、その場は何事もなく済みました」

 ところが、どこからどう漏れ伝わったのか、後日、「西武は高校生を練習に参加させている」との噂が球界内に流れ、夕刊紙に報じられた。ドラフト外で獲ろうとする選手を、西武が密かに調べているという記事内容だった。にわかにパ・リーグが調査に乗り出した一方、日本高野連は疑惑を持たれた2つの高校を事情聴取した。

 結果、「練習参加の事実はない」とされたが、高野連会長は2校に対し、「アマ規定違反の疑惑を抱くような行動はとらぬように」と通達を出す。島田が証言するとおり、西武球団にも根本にもペナルティーは科されなかった。

 もっとも、程度の差はあったが、他球団も密かに同じようなことをしていたという。にもかかわらず、西武だけがマスコミにつつかれたのは何故か。まさにそれまでの新人獲得戦略によって、"球界の寝業師"と呼ばれた根本の存在が目立っていたからなのか。

「目立ったというより、オレが言えば記者は抑えられる、何でもオレが通す、という人だったからです。とにかく怖いもの知らずで、こっちはハラハラするだけ。現に協約違反もありましたが、たとえコミッショナーでも、オレが言えば何とかなると思っていたんじゃないですかね」

1 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る