2020.07.05

今の投手も350勝できるはずや、
同じ人間やからと米田哲也は言った

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki


「僕はね、トレーニングボールは常に持ってました。今でも持ってます。ベッドに置いてます。それで持って遊んでます」

 今でも現役時代と同じように......。遊んでいるといっても、ただのボールではない。トレーニングボールは1個で1kg、2kgと重いものもある。

「そう、あの重いヤツ。それで、汚れ取るには消しゴムで取ってね。昔は、鉛みたいのもありましたがね。今は革になってますけど。さすがに、投げてみようとは思わない、今はその感覚にならないですよ。

 ただ、投げるイメージみたいなもんは頭の中にある。もう体が硬くて動かないから、イメージを体で表現するところまではいかないけど、やっぱり、ボールから離れないね。気持ちがね」

 米田さんはそう言って腕を組み、サッと天を仰いだ。

 現役を引退して28年が経っても、[ガソリンタンク]はボールを握り続けていた。おそらくは連日連夜、トレーニングボールを握り続けているのだった。が、それは投げるためのトレーニングではなく、誰かに披露するためのものでもない。ただ投げるイメージだけがある。

 ふと、純粋投球、という言葉が頭に浮上した。ひたすら、イメージに終始する純粋投球。ボールを握るたびにベストピッチが浮かび上がり、たとえ肉体が衰えても、思い描いたとおりの投球ができる。そして、機会さえあれば、そのイメージは若者たち、これからの投手たちの肉体を通じて伝わっていく。

 ときには、相手バッターを想定したこともあるだろう。ならば、と僕は思った。ひょっとしたら、米田さんの頭の中では「400勝」も「1000試合登板」も、とうの昔に達成されているのではないか。

(2005年11月30日・取材)

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