吉川尚輝が絶望から復活。超一流のスピードが守備では弊害になっていた (5ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Taguchi Yukihito

 取材時点ではシーズン4試合で1安打しか放っていなかった吉川だが、その1本は殊勲打だった。開幕戦の7回裏、岩崎優(阪神)から放った逆転2ラン本塁打である。開幕戦勝利に導く一打は、インコースいっぱいのストレートをライトスタンドに運ぶ芸術的なバッティングだった。

 だが、吉川はこの日一番の困惑顔を浮かべて、こう言うのだった。

「難しい球だったと思うんですけど、でも僕もどうやって打ったのかはわからないんです......」

 先頭の石川慎吾がヒットを放ち、続く湯浅大がバントで送ってつくったチャンスだった。頭にあったのは「集中して、とにかくつなごう」という意識だけ。結果的に本塁打になり、気分は最高だったが、「なぜ打てたのか?」と問われれば、「たまたま」としか言いようがなかった。

「もう一度やれと言われても難しいですか?」という問いに、吉川は控えめに笑ってうなずいた。

 守備の師匠である井端さんは、こんな言葉も吉川にかけている。

「守備を完璧にしてしまえば、打撃に専念できるから」

 吉川は今、まさにこの言葉を実感しているという。

「守備に自信がついたら、バッティングを考える時間がたくさんできるので。どこかで守備に不安があると、バッティングに多少なりとも影響が出るのかなと思います」

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