鈴木誠也が「練習の鬼」になったきっかけ。未熟さを突かれた屈辱の一戦 (3ページ目)

  • 前原淳●文 text by Maehara Jun
  • photo by Nishida Taisuke

 初球、内角のボール球となる真っすぐに手を出して空振り。はやる気持ちがバットを止められなかったように映った。そんなわずかな気持ちの揺れを阪神の左腕エースに突かれた。

 そして3球目、外角に落ちるチェンジアップを引っかけて三塁ゴロ。本塁に送球されフォースアウト。続く會澤翼も見逃しの三振に倒れ、この試合最大の得点機を逃した。

 結局、鈴木は5打数無安打に終わり、試合もスコアレスの引き分けでCS敗退が決まった。

 この年のオフ、あの舞台で打つため、頭のなかに能見の姿を描きながらひたすらバットを振った。

 翌年も能見には18打数4安打、打率.222に抑えられた。それでも8月26日の阪神戦(マツダスタジアム)では、あの時と同じ2打席凡退で迎えた3打席目に、初球のチェンジアップをレフト前に運んで能見をマウンドから引きずり下ろした。

 スター街道を走り始めた5年目の2017年8月22日、DeNA戦で右足首を骨折し、長期離脱を余儀なくされた時も「野球の神様が見つめ直す時間をくれた」と受け入れた。そしてその翌年、鈴木はリーグ3連覇に貢献し、誰もが認めるチームの中心選手となった。

 失敗や挫折から逃げるのではなく、それを始まりとしてとことん向き合ってきた。だからこそ強くなれたし、選手として成長することができた。鈴木誠也の目指す先は、まだまだ遥か遠くにある。

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