2020.05.10

高橋礼が阿部慎之助に投じたインハイ。
135キロ直球にアンダーハンドの真髄を見た

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Kyodo News

 ただ、その阿部のスイング以上にすごかったのが、ホップしながらインコースにねじ込んだ高橋のボールだ。コース、キレとすべてが完璧だった。

 2球目はアウトローにストレートが外れボール。そしてカウント1−1となった3球目。甲斐は初球と同じように中腰で構えて"インハイ"を要求した。ところが、ボールは真ん中に入った。明らかな投げ損じである。

 しかし、阿部の体が一瞬早く開いてしまい、うまくタイミングを合わせることができない。おそらく、阿部のなかに「差し込まれたくない」という意識があったのだろう。そう思わせたのも、初球の"インハイ"が効いていたからだ。初球が見事な伏線となって、阿部ほどの技術を持った打者が不覚にも打ち損じてしまった。打球はボテボテのサードゴロとなり、高橋はこのピンチを切り抜けた。

 アンダーハンド投手は"数字"で打者を圧倒することはできない。その代わり、"体感"で驚かすことはできる。打者にとって下から浮かび上がってくるボールを打つのは至難の業だ。

 事実、高橋が阿部に投じた初球のインハイの球速は135キロ。数字だけを見れば平凡だ。しかし、阿部が放ったファウルは明らかに力負けしたものだった。アンダーハンド投手・高橋礼にしか投げられない"渾身の1球"にプロの凄みを見せつけられた思いがした。

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