19歳初登板で稲葉篤紀に投じた
驚きの一球。武田翔太に度肝を抜かれた

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • photo by Kyodo News

 なぜ、稲葉ほどの打者が甘い球を見逃してしまったのか......。じつは、長年プロの世界で戦ってきたベテランの稲葉だからこそ、打つことも、反応することもできなかったのだ。

 武田が投げたのは、プロに入ってから一度も投げたことのないチェンジアップだった。キャンプでもまったく練習していないから、武田の持ち球として誰も認識しておらず、それは日本ハムのスコアラーも例外ではなかった。

 そして武田は、事もなげにその1球を振り返った。

「前日の練習でしっくりきたので、試しに試合で投げてみたんです」

 高校時代にチェンジアップを投げたことはあったが、通用する手応えを得られず、以来封印してきた。しかし、デビュー戦の前日に「将来使えたらいいな」とふと思いつき、キャッチボール中に投げてみた。

「僕のなかで『これは使える』と。新しい変化球が生まれるのは、いつも遊びのなかからなんです」

 並外れた勝負度胸もさることながら、自らが持つ超感覚のなかで「チェンジアップを投げるのはここしかない」と感じ取ったあの1球には、無限の可能性を感じさせた。

 その後、武田は2015年に13勝を挙げ、その翌年には14勝をマークした。その活躍が認められ、2018年からはそれまでの背番号「30」から栄光の「18」へ変わった。昨年までの8年間で通算57勝を挙げている。

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