山田哲人は「何かを持っている」男。
NPB新記録を衝撃の満塁弾で決めた

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Kyodo News

 杉村コーチは「うちが残り2試合で広島が1試合だから、これで頭ひとつ抜けたね」と安堵の表情を浮かべ、こう続けた。

「22歳なのに本当にすごい精神力だよね。残り試合も少ないので、コーチとしては激励することしかできないけど、何としても(タイトルを)獲らせたい。普段は無口だけど、負けん気は人一倍あるので、負けたら相当悔しいと思う。ただ、タイトルを獲れなかったとしても、この経験は山田のこれからの野球人生に大きく役立つと思っています」

 10月6日のDeNA戦で、山田はすべてのことを一気に解決してしまった。1打席目にセンター前ヒット。2打席目は凡退(センターフライ)するも、この時に山田は久しぶりの手応えを感じたという。

「あの打席はインコースのボールに詰まったんですけど、調子のいい時の感覚があって、今日はいけるかなと思いました」

 すると、3打席目は二塁打、4打席目はバットを折りながらもショートの頭を越えるヒット。これがシーズン191安打目となり、あっという間に藤村富美男の記録に並んだのである。

 そしてヤクルトの2点ビハインドの8回裏、一死満塁の場面で山田の5打席目がまわってきた。マウンドの山口俊が制球に苦しみ、カウント3ボールとなった4球目だった。

「小川(淳司)監督から、3ボールでも打っていいよと言われていましたので、空振りしてもいいと思ってフルスイングしました」(山田)

 この日、4本目となる安打は「打った瞬間、入ると思いました」という、レフトスタンドに突き刺さる29号逆転満塁ホームランとなり、日本人右打者のシーズン最多安打記録を塗り替えた。

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