暴力を経験した元プロ野球選手が考案。「野球ドリル」で小学生を育てる (4ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Sankei Visual

 しかし、暴力的な指導によって野球の技術が上がることは、絶対にないと田中は言う。

「野球で大切なのは、才能と技術。それらと暴力はまったく関係ありません。そもそも、努力すればできるようになるという考え方がおかしい。僕がいくら頑張っても総理大臣になれないのと同じで、できないことはできない」

 田中は法政大学時代に4番を任されたこともあるが、大学卒業時にドラフト指名はかからなかった。アメリカ独立リーグでプレーしたあと、テストを受けて2000年ドラフト7位で日本ハムファイターズに入団した。プロ2年目の2002年には一軍の春季キャンプに参加したが、コーチと衝突し、乱闘騒ぎを起こしたことがある。

「プロ野球の世界にも暴力はあります。殴るコーチはたくさんいます。僕と殴り合いになったコーチは温厚な人で、みんなが『あの人はそうじゃない』と言うんだけど、そういう人を怒らせるのが僕なんです」

 田中は2003年に阪神タイガースに移籍すると、そのシーズン限りでユニフォームを脱いだ。その後、少年野球教室の指導員、専門学校の講師を経て、2017年から英語を公用語とする日本初のリトルリーグのチーム「東京広尾リトル」の事務局長を務めている。

■「野球ドリル」は誰でもわかる評価基準

「東京広尾リトル」で少年たちの指導をする田中は、実にユニークな取り組みをしている。

「野球ドリルを作っています。 10 級から1級まであって、トライアウト(進級テスト)を受けて合格すれば昇級していきます。もしかしたら、野球の世界ではうちだけかもしれません。その子がどのくらい野球がうまいかを示す基準があいまいなんです。基準がないから、補欠が頑張るための目標がない。しかも選手起用に関して、監督の好き嫌いが入ることが多くて、モチベーションをなくしてしまう。そうならないために野球ドリルがあるんです」

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