暴力を経験した元プロ野球選手が考案。「野球ドリル」で小学生を育てる (2ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Sankei Visual

 ここ数年、指導者が選手に暴力をふるう動画も流れているが、そこにいたるまでの経緯が明かされることは少ない。

「もし法律や校則を破ったのなら、学校をやめさせればいい。でも、そういう子を更生させるというのもスポーツの役割。頭がよくなかったり、家が貧しかったりするなかから勝ち上がるためには、スポーツの才能が必要です。だから、集団生活をするなかで、いろいろなことを覚えさせるのも指導者の仕事なんですね。世の中からはみ出してしまいそうな子にとって、スポーツは重要だと思います。まあ、基本的なルールを守れない人間が、上のステージで活躍するのは難しいでしょうが」

 甲子園に出れば、選手には大学への進学や野球部を持つ大企業への就職の道が開ける。だから、野球強豪校ほど勝利至上主義になる。だが、高校時代に甲子園に出場し、法政大学に進んだ田中は、指導者の姿勢に疑問を持っている。

「みんな、勝とう、勝とうと思いすぎですよ。どうしてそんなに勝ちにこだわるんだろうと、不思議でしょうがない。指導者が前のめりになりすぎなんじゃないですか。一番勝ちたいのは選手たちで、ただ勝ちたいから頑張る。そういうものでしょう。それなのに、大人が勝手な価値観を押しつけてしまう。大事なことは人を育てること。人を育てるために勝利を目指す。多くの指導者が、目的と目標を混同しているように思います。だから、いろいろなところにひずみが出る」

 それが指導者による暴力であり、上級生による下級生へのいじめである。

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