ロス五輪決勝、吉田幸夫は思った
「アメリカに勝ったら狙撃されちゃう...」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Kyodo News

 で、追い込んでから投げたのがアウトコース高めのくそボール。スライダーでしたけど、その球にマックが手を出して、空振り三振です。こっちもフォアボールを出したら押し出しで1点差になって、なお一打逆転のピンチになりますから、当然、緊張していたんですけど、あっちはもっと緊張していたみたいですね。何しろ甘いストライクを見逃して、くそボールを空振りしての三振ですから......マックはバッターボックスで落ち着きもなかったですし、出たり入ったり、ゆっくりと自分なりのペースで構えられたというイメージはありませんでした。

 9回にツーランを許したものの、吉田は後続を断つ。結局、日本は6-3でアメリカに勝ってロサンゼルス五輪の金メダルを獲得した。胴上げ投手は吉田だった。

 最後はセンターフライです。勝った瞬間、キャッチャーの嶋田(宗彦/元阪神)がこっちに向かって走ってきて、「おい、オレたち、アメリカに勝っちゃったよ」って、そういう感じでした。センターの熊野輝光さん(元オリックスなど)がウイニングボールを「ハイ」って私に下さって......だから金メダルのウイニングボールは今でも私が持っているんです。ボールにはドジャースタジアムの赤土が少しついていて、縫い目は赤と青の、アメリカの国旗をイメージしたボールでした。

 いま思っても、すごいことをやったんだなと思います。オリンピックの野球で金メダルを獲ったのはあの時だけですし、その一員でいられたことには感謝しています。それなりに努力している人には、チャンスを一度は与えてくれるんだな、と思いました。私にとってはロサンゼルス五輪がそのチャンスだったんでしょう。それまでに何度も負けて、悔し涙を流して、それでもあきらめずに頑張ってきましたから。

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