2020.03.17

高木守道はバックトスを叱られ
「頭にきてね、ますますやりましたよ」

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki


 そして、もうひとつの材料は、ネット上で動画を探す過程で見つかった。検索サイトに〈高木守道〉と入れると、〈他のキーワード〉欄に必ず〈高木守道 普通です〉と出る。何が〈普通〉なのかとクリックしてみたら、こういうことだった。

 名古屋のテレビ局の中日応援番組。中日選手の好プレー映像を高木さんが見て、〈ファインプレー〉か〈普通〉のプレーか判断して札を挙げるコーナーがある。だが、札が2種類ある意味がほとんどない。というのも、高木さんは終始、〈普通〉の札を挙げ続けていたからだ。司会のアナウンサーがどんなに煽っても、決して〈ファインプレー〉と認めない。

 その頑なさと冷静沈着な口調が、かえって笑いを誘う。果たして、あの"アライバ"のプレーさえも〈普通〉だったのか......。

 8月29日、ナゴヤドームで行なわれる中日対広島戦。高木さんはこの一戦をラジオ中継で解説するということで、試合前の午後2時から、球場内のメディアサロンで取材させてもらう運びになった。数多くの報道関係者が集まる場所だが、その時間、まだ人はまばらで、飲食売店付近に立つ高木さんの姿はすぐにわかった。

 歩み寄ると、微妙に体を揺らして向き直り、「高木です」と言って会釈。67歳にして浅黒い肌は野性味あふれる半面、上半分が銀縁で細く角張った眼鏡と、ジャケットのポケットチーフには気品が感じられた。

「何飲まれる? アイスコーヒーでいい?」 

 振り向きざまに高木さんが言った。慌てて買いに行こうとすると、「いいからいいから。あちらのテーブルで待っとって」と制して売店のほうに向かう。いきなりの振舞いに恐縮し、僕はその場に立ち尽くした。テーブルに戻ったところで改めて挨拶を交わして席に着くと、店員の女性がトレーにアイスコーヒーを載せて運んできた。高木さんはトレーを引き寄せ、「すいませんね、また。セルフサービスなのに」と声をかける。