FA宣言第1号の松永浩美が語る「球界の寝業師」根本陸夫との点と線

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Kyodo News

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根本陸夫外伝〜証言で綴る「球界の革命児」の知られざる真実
連載第9回
証言者・松永浩美(1)

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 1993年2月、春季キャンプ中の邂逅だった。前年12月にオリックスから阪神に移籍した松永浩美は、休日、高知城からほど近いホテルで知人と待ち合わせた。県東部の安芸の阪神キャンプは初めてでも、高知自体は阪急(現・オリックス)時代もキャンプで滞在したなじみの場所。ゆえに休みの時間をともに過ごすような知り合いがいて、ラウンジに入ろうとした時のことだ。

93年にFA宣言第1号となった当時・阪神の松永浩美(写真中央)93年にFA宣言第1号となった当時・阪神の松永浩美(写真中央) ユニフォーム姿の男たちが近づいてくるのを見た途端、松永は思い出した。やはり高知でキャンプ中のダイエー(現・ソフトバンク)の宿舎がこのホテルだったと。男たちは監督の根本陸夫を筆頭とするコーチングスタッフで、練習を終えて戻ってきたところに阪神の選手が紛れ込んだような状況。松永が内心、ヤバいぞ......と思っていると、横に座った根本がおもむろに言った。

「おお、マツ。なんだ、うちへ来るんか?」

 いきなり冗談をかまされたが、根本とは初対面だった。それでもごく自然に「マツ」と呼ばれた流れに乗り、プロ15年目のベテラン・松永は、指導者・根本へのリスペクトを込めて返答した。

「何か、キャッチボールをずっと長くやっているそうで。いい練習しているみたいですね」

「わかる? キャッチボールの意味」

「たぶん、ホークスの選手は知らないと思いますが、私は意味をわかっています」

「そういう選手、うちにはいないんだよね」

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