大矢明彦が佐々木&谷繁バッテリー
誕生秘話を告白「シゲを使っていいか」

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko
  • photo by Kyodo News

「人間は成功をしなければ、努力もできないですよ。それこそ言われっぱなしでは動けない。僕らの世代はそうでした。一方的にいろいろ怒られ、殴られて。だけど、『てめえ、しっかりやれよ』とか抽象的な言葉で怒鳴られても『どうしたらしっかりなるか』は教えてもらえなかった。

 だから僕は、自分が指導されてプラスにならなかったことはやりませんでした。重要なのは、選手が『ああ、このコーチは俺のことを本当に考えてくれているな』というのを常に感じさせるということです」

 周囲からの先入観による評価に、半ば気持ちも投げやりになりかけていた谷繁に大矢はどのようにコミュニケーションを取っていったのか。

「やっぱり密に話をすることですね。キャッチャーが一番言われるのは、やはりリードのことです。リードって、抑えて当たり前じゃないですか。抑えても別に褒めてくれなくて、逆に点を取られると、ピッチャーは怒られないで、『お前のリードが悪い』となる。じゃあ、『いいリードはどうしたらいいの?』という話ですよね。

 リードの評価の仕方というのは、いわば組み立てです。例えば、打たれる前にどう考えて組み立てていったか。打たれる時というのはほぼ真ん中近辺にボールが集まる。だから、半分はピッチャーの責任もあるんです。それを防ぐためには、それまでの布石として自分が何に気をつけていればいいのかということを話しました。

 データをどう見るのか? バッターが右狙いしている時は、どうすれば打ち取れるのか。それから、インサイドでファウルを取ったら最後はアウトコースに行くボール球を投げさせれば、バッターが振る率は6割ぐらいあるんだぜとか。こうやったら成功するという話です。

 それから、先ほども話しましたけど、もともと周囲が古田を基準に見ていたので、例えばうまく成功しても解説者も誰もシゲを褒めないんですよね。中継を見ていても、『ピッチャーがいいところに放りましたね』で終わりなんです。だから、自分が褒めてやらないといけないと心掛けました。

『こういうケースでこのコースだったら、バッターはほとんど見逃すよ』といって、見逃しの三振を取る。それまでは『ピッチャーが抜群のコントロールでしたね』と言われていたのが、『いや、あそこの最後のアウトコースまっすぐを要求したのは、谷繁の手柄だね』と言ってやると、周りの人たちが『ああ、リードがよくなってるんだ』と思ってくれますよね。

 そうすると、解説者の人も『谷繁、あそこうまかったですね』とちょこちょこ言ってくれるようになる。自然に周りの評価が『あ、うまくなってるんだ、こいつ』となって注目さえしてもらえれば、もともと良い選手なのだから、『フットワークがよくなりましたね』『肩がよくなりましたね』と、どんどん評価がそうやって上がっていくんです」

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