2020.02.02

「野球やめるしかないな」。王貞治は
スランプの柳田真宏に冷たく言った

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki


 またしても「やめる」話だ。しかも今度は、自信になる言葉をもらった超・超一流の先輩から、逆に引退を勧告されるとは……。クビを覚悟して戦いに臨むよりもつらい状況だろう、

「ええもう、僕はそこで『ああ、そうすか……』って言うしかなかったですから。でも実際、バットが振れない選手は野球なんてできない。じゃあ、続けるためにはどうすればいい? そのときに僕が気づいたのは、レギュラーの人が4打席立つのと、ピンチヒッターが1打席立つのと、スタート時点で行くときは同じ。レギュラーの1打席目と同じだということだったんです。

 ピンチヒッターはレギュラーより力が劣ってるから控えなんだけど、同じ打席に立つ以上は劣ってるなんて思うことはない。でも、レギュラーと違って1打席しかない。だったら1球目から、ファーストストライクから、曲がろうが落ちようがバーン! と。真っすぐがこようが何しようが全力でパーン! と振れる状態を作っていかなきゃいけない。それでダメだったらもうやめよう、っていう気持ちになったんです」

 バットを持つように拳を握り、右腕を力強く動かす様を見ていたら、王の言葉が頭に浮上した。「1打席でいきなり打てる」柳田さんの力を認めていたからこそ、1打席で勝負する代打が積極的に振れないでどうする、という思いがあってのアドバイスだったのではないか。

「いや、そこまではわかりません。だって、アドバイスなら『やめるしかない』なんて冷たく言わないでしょ? ふふっ。でも、王さんはいい加減なことは言わない方だから、自分なりに、ピンチヒッターのことにつながってるって解釈しました。そうして気持ちを入れ替えて打席に立ったら、本当にファーストストライクからパーン! と打てたんです」