2020.02.02

「野球やめるしかないな」。王貞治は
スランプの柳田真宏に冷たく言った

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki


「確かにそれも言えます。ただ、僕が最初に自信をつけたのは、王(貞治)さんの何気ない言葉でした。まだピンチヒッターばっかりで出ていた頃、『お前、よく1打席でいきなり打てるな。俺はダメだ』って言われたんです。僕はその一言を聞いて、『世界の王』っていわれる人にもできないことを俺はやってるんだと。そう考えたら、すごい自信になったんですよ。

 素晴らしい理論を持った指導者以上に、一緒に戦ってる超一流の先輩に褒められたらもっと自信になる。まして王さんは超一流の上に超がつく方ですから──。で、僕はこれ、今の野球でも変わらないと思うし、亀井君もね、原(辰徳)監督に認められて、その上で小笠原(道大)とか、あのクラスの先輩に褒められて自信になった、ってことは絶対あるはずですよ」

 不意に亀井の名前が出てきた。ずっと頭の片隅に入れてくれていたのだろうか。改めて、どう見ているのか、聞いておきたい。

「去年の実績を自信にして、今年もやれるでしょう。ただ、僕に言わせると、そこで亀井君があんまり驕(おご)っちゃったら、怖い部分がある。人によっては、自信を持つまでに10年もかかりますけど、自信をなくすのは1日でなくしちゃう。本当に1日でなくします」

 昨年=09年8月、亀井が打棒爆発の後、スランプに陥ったことが思い出された。ただ、「本当になくします」と聞いて、むしろ柳田さんの「自信喪失」について知りたくなった。

「僕は何回も自信なくしてます。いちばんひどかったのは、やっぱりピンチヒッターの頃。ボールは見えてるのにバットが出てこなくなって、ずいぶん悩みました。コーチに相談しに行ったら、『王に聞いてこい』と。僕はすぐに聞きに行ったんですけど、王さん、『バットが振れないんだったら、野球やめるしかないな』って言うんです。すっごく、冷たい言い方でしたよ」