広澤克実が誇るロス五輪の金メダル「アマチュア史上最高の試合をした」 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Kyodo News

 その瞬間、ああ、緊張してもいいんだと思えたんです。そうしたら力が抜けて、我に返ることができました。緊張しないとできないことがあるし、緊張していたからこそできることもたくさんある。それはあの時、松永監督から教えてもらったことだと思っています。

 バッティングのほうでも、ロサンゼルスに入ってから、松永監督に「ステップは真っすぐ、足を上げずに打て」と指導されました。そんな打ち方、その時まで一度も試したことがなかったので最初は戸惑ったんですけど、フーバーのカーブは足を上げて打てる気がしなかったし、実際、ノーステップにしたらこれまでと景色が違って見えたんです。同じように大きく曲がってくるカーブなんですけど、見え方が違った。「あれっ」と思ったら、決勝ではタイムリーにホームランですよ。ノーステップ効果です(笑)。

 タイムリーのほうは4回だったかな。4番の荒井が同点タイムリーを打って1-1になった直後のワンアウト1、2塁。日米大学選手権での僕はフーバーのカーブにまったくタイミングが合っていなかったので、相手バッテリーからはカーブさえ投げておけば大丈夫だと思われていたんでしょう。僕がノーステップ打法でピッチャー方向へ打ち返したら、それがセンター前ヒットになって、逆転です。本当にホッとしました。

 で、ホームランです。3-1で日本が2点をリードしていた8回、ツーアウト1、3塁でした。エースの吉田(幸夫)さんがリリーフで投げていて、ここで追加点が取れれば逃げ切れる確率がかなり高くなりますから、どうしてもヒットが打ちたくてバッターボックスへ向かいました。そうしたらフーバーのカーブが高めに来た。そのボールについ手が出て、打ち上げちゃったんです。

「ああ、しまった」と思ったら、球場が静まりかえった。フッと見上げたら、ライナー性の打球が左中間へ飛んでいく。けっこう、でかいホームランでした。ベンチに帰ってきてチームメイトとハイタッチしていたら、「BOO」とか「Kill You」とか、聞こえてくるわけです。あれで6-1になりましたから、そりゃ、でかい一発でしたね。

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