2020.01.28

広澤克実が誇るロス五輪の金メダル
「アマチュア史上最高の試合をした」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Kyodo News

 僕は食いしん坊ですから、いろんな国の食事会場に行っていろんなものを食べたかったのに、そのミーティングのせいで時間がない。だから食事はいつも駆け足でした(笑)。選手村には映画館もボウリング場もあったんですけど、そんなところで遊んでいた話が、万が一、監督の耳に入ったら大変ですから、もちろん一度も行ってません。

 準決勝の相手はチャイニーズ・タイペイでした。相手ピッチャーの先発は郭泰源です。じつは僕ら、開幕戦のアメリカ対チャイニーズ・タイペイの試合をスタンドで観戦していました。そのとき、郭泰源が投げていたストレートが154キロだったんです。その上、キレッキレのスライダーまで投げるんですよ。あんなの、打てなっこないなって。今は150キロを投げるピッチャーがそれなりの数いますけど、当時は150キロを超えるピッチャーなんていませんでしたからね。体感が今とはまったく違うんです。見慣れているなかの150キロと、見たことのない150キロですから、そりゃ、違うでしょ。

郭泰源の154キロにはホントに仰天しました。スリークォーター気味のフォームで、軽く投げているのにビューって、とんでもない速さのボールが来る。スライダーもベース1個分、曲がるんですよ。大袈裟でなく、そのくらい曲がるんです。郭泰源が一番よかったときって、西武の時じゃなくて、あのロサンゼルス五輪の開幕戦ですよ。

 実際、試合で向き合った郭泰源は想像以上でした。初回、ツーアウト1、3塁で、5番の僕に回ってきます。こりゃ、普通に向かっていっても絶対に無理だと観念していましたから、バットを短く持って合わせていこうと......それでもバットに当てるのが精一杯だったんですけど、そうやって150キロ超の真っすぐをコンパクトに打ち返したら、なんと、その打球がピッチャーのほうへ飛んでいって郭泰源の右足を直撃したんです。

 結果、郭泰源は本調子からほど遠いコンディションになったんでしょうね。5回に荒井(幸雄、日本石油)のスリーベースヒットで先制して郭泰源をマウンドから引きずり下ろして、延長10回、荒井のショートゴロがイレギュラーして、これがサヨナラヒットになった。準決勝でチャイニーズ・タイペイに2-1で勝ったんです。帰りのバスでは、学生の間で、よし、これで銀メダルだって(笑)。だってアメリカに勝てるとは思ってませんでしたからね。