菅野智之が「虎の穴」でリスクを冒す覚悟。上野由岐子の金言が響いた (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

「もっと、もっと、そう、もっと極端に」

 鴻江さんが菅野を叱咤する。そうすることで左腰の開きを抑えることができるようになるからなのだが、この上体を大きくひねる動作に対して、菅野はなかなか違和感を拭うことができない。菅野はこう言って苦笑いを浮かべた。

「難しいですね......やっぱり長年の感覚がありますからね」

 すると、そのやりとりを見ていたソフトボールの金メダリスト、上野由岐子が菅野にこう声をかけた。

「長年、染みついた感覚を大事にする気持ちはわかるけど、でも、その感覚を捨ててまで変えたほうがいいかどうかの答えは、投げたボールが出してくれるからね」

 菅野はその言葉にハッとした。

 とにかくやってみよう、投げてみよう、そのボールを自分で確かめてみよう......そう覚悟を決めた菅野は、翌日、極端に上体を動かして体をひねるフォームでボールを投げた。そんな菅野の姿を見て、上野はこう言った。

「菅野選手はすごく悩んでいる感じで、戸惑いみたいなものを感じたので、メンタル的な話をしました。トップにいて、追われる立場だったり、地位を守らなければいけなかったり、いろんなものを背負う......背負った者にしかわからない感情とか、そういう感覚的な話ができたのは自分としてもよかったと思います。逆に自分もそういう経験をしてきたんだと思うと、あらためて自分の歳を感じましたね(笑)」

 30歳の菅野智之と37歳の上野由岐子。

 野球とソフトボールの違いはあっても、ともにチームを、さらには日の丸を背負うエースとしてマウンドに立ち続けてきた。そんな上野から菅野に授けられた金言----ケガに苦しみ、年齢とも戦いながら、それを乗り越えてきたからこそわかる「今こそ変える勇気が必要だ」という上野の言葉が、菅野に響かないはずはなかった。菅野がこう言っていたことがある。

「変化できなくなったら、そこまでですからね。もちろんリスクはありますよ。でも高みを目指すためにはリスクも冒す必要があると思いますし、常識に縛られずにアップデートしていかないとダメだと思います。自分にはまだ伸びしろがあるはずだし、だからこそ何か新しいことにチャレンジしていきたいと思えるんです」

  『あなたは、うで体? あし体? 3秒で体がわかる、人生が変わる』

鴻江寿治(こうのえ・ひさお)著

人はみな、「うで体(猫背型)」「あし体(反り腰型)」の2種類に分かれている──。松坂大輔、千賀滉大、上野由岐子など一流アスリートに寄り添ってきたカリスマスポーツトレーナー・鴻江寿治(こうのえ ひさお)氏が、独自の「骨幹理論」を一般の人々に応用した初めての書籍。

【発売日】2018年9月14日

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