菅野智之が「虎の穴」でリスクを冒す覚悟。上野由岐子の金言が響いた

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

 時計は深夜の0時を回っていた。

 年が明けると福岡の八女(やめ)にある"虎の穴"に集ってくるピッチャーたちは、夜遅くまでビデオで撮影した自身のピッチングフォームをチェックしたり、マッサージを受けたり、バランス・トレーニングをしたり、シャドウ・ピッチングを繰り返したりと、思い思いの時間を過ごしていた。

"虎の穴"のボスは、コウノエ・スポーツアカデミーを主宰する鴻江寿治(こうのえ・ひさお)さんだ。この夜、鴻江さんが丹念に身体をチェックしていたのは、"虎の穴"にこの日から合流したジャイアンツの菅野智之だった。

上野由岐子(写真右)のアドバイスに耳を傾ける菅野智之上野由岐子(写真右)のアドバイスに耳を傾ける菅野智之 菅野は去年、エースナンバーの"18番"を受け継ぎ、5度目の開幕投手を務めた。しかし、一軍登録を3度も抹消されるなど一年を通して腰痛などのケガに苦しみ、プロ7年目にして初めて規定投球回数を下回ってしまった。

 それでも22試合に先発して11勝6敗と5つの貯金を作り、5年ぶりのリーグ制覇に貢献したのは菅野の意地だったろう。防御率3.89は、プロ2年目から2.33、1.91、2.01、1.59、2.14とハイレベルな数字を刻み続けてきたことを思えば物足りない数字ではあるが、それでも30歳になった菅野はもがき苦しみながらエースが背負う最低限の責任は果たした。その菅野が抱く今シーズンへの強い気持ちは、誰よりも鴻江さんが間近で感じ取っていた。鴻江さんがこう話す。

「結果が出た時って、何かを変えようと思っても変えられないじゃないですか。だからこそ、今がチャンスなんです。去年、イメージどおりのピッチングができなかったという自覚があるなら、今、変わらないと......そのために必要なのは、ちょっとした勇気なんです」

 鴻江さんが菅野にアドバイスを送る。その言葉に従って、菅野がシャドウ・ピッチングをする。鴻江理論によると、人間の身体は"うで体=猫背"と"あし体=反り腰"に二分され、うで体、あし体のそれぞれに合わせたフォームがあるのだという。うで体タイプの菅野は、腕よりも先に足を上げると左の骨盤が開いてしまうため、先に腕を動かして左肩のラインを意識しながら上体をひねらなければならない。しかし、その動きは今まで菅野が大切にしてきた感覚とは一致しない。

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