松沼兄弟は長嶋茂雄のオーラに屈せず、根本陸夫の言葉に心を奪われた (2ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Kyodo News

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 その日、都内で行なわれた東洋大の優勝祝賀会の席上で弟・雅之は「絶対、プロには行きません。2年後、自信が持てたら考えますが、兄と一緒にがんばります」と発言。報道されていた巨人の誘いを拒否すると、東洋大OBとして出席していた兄・博久も間近に結婚式を控えていたため、「準備に忙しくて巨人の方と会う暇もありません」とコメントを残している。

「結婚式は12月9日で、その2日後、東京ガスの納会。この時はオトマツ(弟・雅之)も来て『来年、よろしくお願いします』って挨拶しているんだけど、それが変わったのは、会社の方針で江口(昇)監督を代えるっていう話を知った時です。僕はこの人のためにがんばりたいっていう思いがあって、めちゃくちゃ慕っていたから、『え? 江口さん辞めるんか』って。オトマツにも『江口さんがいるからここでがんばろうや』って言ってたんだけど......。そこから僕らの気持ちが揺れ動いたんです」

 話を聞いた雅之も「え? 江口さん、辞めちゃうの?」となり、「じゃあ、プロの話も聞いてみようか」となった。その頃、各球団のスカウトは「松沼兄弟は120%、巨人入り」との情報をつかんでいた。

 西武のスカウト、毒島章一(ぶすじま・しょういち/元・東映ほか)によれば、球団では「巨人が松沼兄弟の"囲い込み"をやっている」と断定。毒島が松沼兄弟一本に絞って担当となり、"反撃"が開始されたという。

「毒島さんはいつも交渉の席にいて、人がよくて、僕たち兄弟をずっと見ている方でした。メインは宮内さんだったり、戸田(博之)さんだったり、堤オーナーの下で三本指に入るような人で、そういう人たちの横についているのが毒島さん。たぶん、球団にいろんな報告はしていたんでしょうけど、決定権はなかったと思うし、口説かれたというイメージはないですね」

 戸田は堤にとって早稲田大の後輩であり、「ナンバーワンの腹心」であり、球団運営実務のトップ。のちに西武の球団社長となって根本のプランを後押しすることになる。この戸田、根本、毒島の3人で松沼兄弟獲得作戦が練られた時のこと。兄と弟、どちらを先に口説くかが議題になると、「おっちょこちょいなのは弟のほうだから、弟を口説こう」と決まった。

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