宮本和知は突然のロス五輪出場に戸惑い「うれしい気持ちはほぼなかった」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports/AFLO

「うれしいという気持ちはほとんどなくて、『おい、オレたち、オリンピックに行くのかよ』という感じでした。我々、社会人の選手にとっては都市対抗へ出場することが何よりも大事で、僕はちょうどその年、3連投して都市対抗へ自チームでの初出場を決めたばかりだったんです。これから都市対抗だっていう時に、僕はオリンピックのメンバーに選ばれていて、えっ、都市対抗はどうなってしまうんだって、もうバタバタですよ。

 そもそもオリンピックなんて目標として考えたこともなかったですし、オリンピックに出られると言われても、キューバの強さを目の当たりにして、どうせ、オレたちは世界に出れば弱いと思っていましたから、ある意味、気楽なもんでした。これは胸を借りるしかないという、チャレンジャー精神しかなかったんです。オレたちがオリンピックで勝てるわけがないという気持ちは、正直、どこかにありました」

 オリンピックを戦う全日本の代表選手、20名のうち、大学生の6名は日米大学野球選手権のためにすでにアメリカにいて、ロサンゼルスへは社会人の選手のみ、14名での出発となった。しかし、オリンピックに向かう野球の全日本を成田空港で見送る報道陣は、ほとんどいなかったのだという。

「たしかに、シラけた雰囲気はあったかもしれません。でも、ドジャースタジアムに着いた時、天然芝のすばらしい環境を目の当たりにして、ここがベースボールの本場なのかとビックリしました。日本では感じたことのない雰囲気でしたし、ああ、オレたちがこれからここでやらなきゃいけないのは、野球じゃなくてベースボールなのかと思い知らされた感じでしたね」

 ロサンゼルス五輪は8チームが出場、予選リーグは4チームずつの白組と青組の2組に分けられた。白組は開催国のアメリカ、アジア・オセアニア代表決定戦に勝ったチャイニーズ・タイペイ、ヨーロッパ予選の勝者・イタリア、キューバに代わって出場するドミニカ共和国。

 そして青組が世界選手権で優勝して出場権を得た韓国、アメリカ・アフリカ予選で出場権を得たニカラグア、追加招集の日本とカナダ。それぞれの組の上位2チームが決勝トーナメントに勝ち上がることになっていた。宮本が言う。

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