2019.12.29

【イップスの深層】赤星憲広が弱点克服の
ため鳥谷敬に変化球を投げたわけ

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

「トリ(鳥谷)はイップスになったことがまったくないんです。だから『なんでそうなるんですかねぇ?』なんて言っていて、僕は『みんなお前みたいな鋼のメンタルじゃねぇんだよ!』と言い返していました(笑)。でも、トリも大学時代から周りにいたイップスの選手を見てきたそうで、僕のことも受け入れてくれました。周りに理解してくれる人がいるかどうかも、とても大事だと思います」

 鳥谷のほかにも、ともに外野を守った金本知憲も寛容だった。試合中にレフトの金本とキャッチボールをする際、赤星は少しリリース感覚に危険を感じると「カネさん、すみません!」と断りを入れてからスライダーを投げた。先輩とのキャッチボールで、遊びともとれる変化球を投げることは本来なら緊張感が走りそうなもの。だが、金本は嫌な顔ひとつせず、それどころかスライダーを投げ返してくることもあった。

 キャッチボールで変化球を投げることは、赤星にとって「困ったときの一手」になっていった。

 課題のショートスローを克服するために編み出したのは「下から投げる」という方法だった。これは社会人1年目の経験が大きく生きた。

 JR東日本に入社した赤星は、チーム事情から1年目はショートとしてプレーした。もちろん、その時点で送球への不安は健在であり、当初は「ちょっと待って......」と後ろ向きだった。それでも、すでに内野手としてのプライドを捨て去っていたこともあり、今度は「ワンバウンド送球でもいい」と割り切れた。人工芝の球場が多かったこともあり、叩きつける送球でもなんとかしのげた。

 あとは併殺時などのショートスローをどうするか。そこで赤星は二塁ベースカバーに入ったセカンドに送球する際、試しにアンダースローのように低い角度からボールを投げてみた。すると、今までにない感覚があったという。

「めちゃくちゃいい球がいったんです。下からだと腕が体に巻きつくのではなく、投げたい方向に腕が伸びて、手が体の前で振れる感覚がありました。『これや!』と思いましたね」