2019.11.30

今宮健太が甲子園で見せた伝説の10球。
「チビでもやれる」と証明した

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Kouchi Shinji

「アイツ(山野)とは小学校の頃から同じチームでやってきて、高校も自分のいる明豊に来てくれた。ほんとかわいいヤツなんです。あの場面、アイツがどういう気持ちなのかわかったし、ここは自分が抑えないといけないと思って……それが力になりました。もう一緒に野球をすることはないと思うんですけど、アイツと野球をするのが一番楽しかったので……」

 今宮が投じた10球のうち8球がストレートで、そのうち2球が自己最速となる154キロだった。今宮健太という野球人としての能力の高さ、男としての魅力が詰まった、じつにしびれる場面だった。

 試合は10回表に今宮がタイムリーを許して明豊は敗れた。試合後の今宮は、こんな言葉で高校野球生活の最後を締めくくった。

「こんなチビでも150キロを投げられるってことを、野球をやっている子どもたちに見せられたんじゃないかなって思います。本当に、こんなチビでもやれるってことを甲子園で証明したかったので、そこは伝わったんじゃないかなと思います」

 当時の資料によると、今宮のサイズは171センチ、69キロ。この小さい体のどこにこれだけのパワーが潜んでいるのか……今宮のプレーを見るたび、「サイズは関係ない」とつくづく気づかされたものだ。

 先の巨人との日本シリーズ第4戦。ソフトバンク1点リードの9回裏、一死から三遊間の深い位置にゴロが飛んだ。タイミングは際どく、アウトの判定に巨人はリクエストを要請した。

 この試合をあるNPB関係者とテレビで見ていたのだが、その人は即座に「絶対にアウト」と言った。たしかに、私の目にもアウトに見えたが、その人はさらにこう加えた。「今宮ですから」と。

 どんな位置からでも、どんな体勢からでも、強く生きた、かつ正確にコントロールされた球を投げられるのが今宮なのだ。

 そう言えば、以前、今宮の母・一子さんがこんなことを話していた。

「赤ちゃんの時にガラガラと鳴るおもちゃを渡すと、普通の子はそれを振ったりして音を楽しむのに、健太はすぐに投げるんです。それを見て、『ああ、この子は野球をやるために生まれてきたんだ』と思って、精一杯、教えてあげないといけないと思ったんです」

 一子さんは、今宮が所属していた少年野球チームでコーチを務め(父・美智雄さんが監督)、野球のイロハを教えた人でもあるが、その話を聞いて「投げる」が今宮の野球人としての出発点だと思ったものだ。

 もし、今宮が野手ではなく投手として野球を続けていたら、どんな野球人生を送っていたのだろうと、ふと考えることがある。

 ともあれ、あの頃も今も、今宮健太はじつに魅力的で、頼れる男であることは何も変わっていない。

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