「野村克也の言葉」は生きるヒントの宝庫。八重樫幸雄は懸命にメモした (3ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

【野村克也と古田敦也、運命の出会い】

――すごいですね。「野村ノート」は万能の人生指南書じゃないですか!

八重樫 限界を感じたときに、よく「開き直れ」って言うでしょ。でも、それも時と場合によるんだよね。ノムさんが言うには「《あきらめの心境》が役に立つときは新しくやり直すときだけ」というのがポイント。何でもかんでも「あきらめの心境」を持てばいいっていうわけじゃないんだよね。

――深い、深すぎますよ、八重樫さん! 今回は「!」ばかり多用している気がします(笑)。「あきらめ」「開き直り」というのは、適切な使い方をしないと、単なるやけっぱちになってしまいますからね。

八重樫 その点もノムさんはきちんと解説しているよ(笑)。「やけくそ......ギブアップの心境、努力放棄と同じ」「開き直り......チャレンジ精神」だと。つまり「やけくそ」はダメだけど、適切な「開き直り」は次への可能性につながるということ。

――その「適切」というのが難しいんですけどね。それにしても、「野村ノート」には生きるヒントが満載ですね。八重樫さんの話を聞いているだけで絶対的な信頼感を覚えます。

八重樫 いやいや、その考え方が甘いんだよ(笑)。ノムさんが言うには「《絶対》、《永遠》、《無限》などは存在しない! 一切が《相対》、《有限》であり、《死滅》するもの。このことを理解しない限り挑戦は始まらない」とキッパリと言っているし、最後に「限りないものはただ一つ、《挑戦》である」って断言しているからね。

――ますますスゴい! ノムさんはまさに「名言メーカー」であり、「格言の達人」ですね。これを毎日、目の前で聞けたのだから当時のヤクルトナインはぜいたくでしたね。

八重樫 本当にそう思いますよ。でも、あの当時に、本当にその価値をわかっていたのがはたしてどれくらいいたのか? 僕にしても、「あぁ、あの時の言葉はこういうことだったのか」って、引退してから気がつくことも多かったからね。

――野村さんが監督に就任したのが1990(平成2)年のこと。そしてこの時、ルーキーとして入団してきたのが後に稀代の名捕手として名を馳せる古田敦也さんでした。ノムさんの就任と同時に古田さんが入団。まさに運命の出会いですね。当時、ベテランだった八重樫さんは「ルーキー・古田」をどのように見ていたんですか?

八重樫 ルーキー時代の古田? よく覚えていますよ。スローイング、キャッチングはダントツで光るものがあったからね。......その前にトイレに行ってきてもいい? あと、焼酎のお代わりも頼んでおいてくれる?

――うーん、焦らしますね、八重樫さん(笑)。トイレから戻ったら、古田さんのお話をお願いしますよ。

八重樫 わかった、わかった。じゃあこの続きはまた次回に。

(第10回に続く)

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