「獲物を追う動物」プレミア12で世界を驚かせた周東佑京の走塁術 (3ページ目)

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • photo by Getty Images

 そのスピードを買われて今年3月のオープン戦は背番号100番台のままで一軍帯同した。しかし、オープン戦では3度の盗塁を試みたが、3度すべて失敗に終わった。それでも3月26日に支配下登録され、昨年まで城所がつけていた背番号23を手にした。

 開幕は二軍スタートとなったが、野手に故障者が続出したことで4月上旬に一軍昇格。だが、最初は通用するのか不安を抱えたままだった。

そんな周東に、本多コーチはいつもこう声をかけた。

「大丈夫、大丈夫だから」

 盗塁にとって迷いは成功の敵だ。本多コーチはオープン戦でアウトになった周東を一度たりとも責めなかった。寄り添って話し合いを重ねた。

 いざ一軍で出番が来ると、まるで別人のように盗塁成功を重ねた。周東は言う。

「とくに変えた部分というのはないんですが、やっぱりオープン戦の時は育成だったので、とにかく結果を出したかった。その気持ちが強すぎて、少し強引になっていた部分はあったと思います。その分、スタートがうまくいかなかった。盗塁で最も大切なのはリラックスです。あまり走ろうと思わないことです。もちろん、ピッチャーにクセがあれば、チャンスを見て走ろうと思いますけど、今年1年間やってきて、明らかにクセのあるピッチャーは多くないですし......。僕としては、いかに走ろうとせずにリラックスした状態でいられるか。そこを大事にしています」

 一躍、時の人となり、スターの仲間入りを果たした周東だが、本多コーチは「この経験は何事にも代えがたい。彼にとって間違いなくプラス」と言いながらも、少し表情を曇らせる。

「本当は秋季キャンプで、この時期にしかやれない練習をしてほしかった」

 工藤公康監督も快く送り出した一方で、「打ち込みをさせたかった」と語る。そして、周東自身も「打たないと使ってもらえない」と、痛いほど自覚している。

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