「獲物を追う動物」プレミア12で世界を驚かせた周東佑京の走塁術 (2ページ目)

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • photo by Getty Images

 この場面について、ソフトバンクで周東を指導する本多雄一コーチが興味深い話をしてくれた。

「盗塁や好走塁というのは、ただ足が速いだけでは成功しません。展開の予想、判断能力の高さが必要になります。それは当然のことで、プロの世界でも『そこを磨かなきゃ』という声をよく聞くと思いますが、それって教えて上達するものじゃない。ある意味生まれ持ったものなんです。獲物を追う動物と同じです。そういう観察力みたいなものは野球を始めた小さな頃から、それができている選手はずっとできる。周東はその点は優れていると思います」

 本多コーチは現役時代、2年連続盗塁王を獲得するなど通算342盗塁の"走り屋"だった。現役最終年だった昨年は、おもにファームで過ごしたこともあり、周東とは先輩と後輩の間柄で1シーズンを過ごした。

 東京農業大学北海道オホーツクキャンパスからプロ入りした周東は育成ドラフト2位でのプロ入りだった。1年前の今頃はまだ背番号121を背負っていた。

「僕は大卒だから時間がないんです」

焦りの言葉は1年目の春先からずっと口にしていた。育成同期の大竹耕太郎が支配下入りした頃、周東は二軍から三軍行きを命じられた。あの時は見るからに落ち込んでいた。

 1年目から何か形を残さないといけないと考えた周東は、ウエスタン・リーグの盗塁王にこだわった。その時に親身になってアドバイスをくれたのが本多先輩だった。

「僕はスタートが苦手。本多さんにその話をしたら『リードの時に自分は帰塁する意識はない、常にスタートすることを考えている』と言われました」

 また、昨年限りで引退したもうひとりの先輩である城所龍磨からはリードの小ささを指摘された。

「ウエスタンの最後の3連戦の前、僕はトップじゃなかったんです。どうしても盗塁王を獲りたかったので、僕のなかで思い切ってリードを大きくとって、迷わずスタートを切りました。結果は3試合で6盗塁。シーズン27盗塁でタイトルを獲ることができたんです」

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