異色右腕・松本直晃のトライアウト。来年父になる男の「夢の続き」 (2ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Nishida Taisuke

 4年目の今シーズンは、「運に頼らず、実力で一軍定着を」と期して臨んだが、4試合の登板に止まった。松本は言う。

「去年と今年で、何が違ったのか考えました。それでもはっきりとはわからなくて......。ひとつ感じるのは、空振りを取るボールを増やせなかったこと。ストライクを取ることに関しては苦労することがなかったんですが、欲しい場面で空振りが奪えるボールを磨ききれなかった」

 そして、「プロに入ったのが遅く、今年で29歳。今年かな、とは思っていた」という戦力外通告を受けた。

 現役続行の望みをかけて挑んだトライアウトでは、思わぬ再会に恵まれた。環太平洋大時代の先輩にあたる亀沢恭平(前中日)が、松本の登板時にセカンドを守ったのだ。登板直前には、球種の確認が必要な捕手だけでなく、亀沢がマウンドに駆け寄る場面もあった。

「大学の時、同じショートを守っていて、ずっと亀沢さんのうしろで練習していました。こうやって僕が投げて、亀沢さんが守って、なんてことになるとは思ってもいませんでした。今日お会いして、『すごいっすね』と話していたんです。マウンドに上がる時も、終わった時も声をかけてくださって」

 再会だけでなく、胸躍る対戦も用意されていた。最初に対戦したのが、内野手時代に強い憧れを抱いていた西岡剛(BCリーグ・栃木ゴールデンブレーブス)だった。

「西岡さんと対戦できたことがうれしかったです。大学時代、練習試合用の背番号をわざわざ7番にしていたぐらい、西岡さんに憧れていて。同じメーカーのリストバンドを身に着けたりもしていました。今回対戦できて、『プロ野球界ってすごい場所やな』と、あらためて感じました」

 その西岡から空振り三振を奪うと、続く八百板卓丸(前楽天)をレフトフライに打ち取った。ラストとなる3人目の近藤弘基(前中日)は、外角の変化球を打たせてのセカンドフライ。打球を処理した亀沢に会釈し、マウンドを下りた。

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