大村巌の若手育成術は「諭して褒める」。
怒るや叱るはコーチの感情だ

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Jiji photo

 そんな大村にとって、コーチとして手応えを感じるのはどういう時なのか。当然、若い選手の成長が目に見えた時と思われるが、それは結果が出ることが第一なのだろうか。

「もちろん、試合で打ってくれるのはうれしいですよ。とくに僕自身、二軍から一軍担当に変わった今年は、たとえば、香月(一也)が初めてホームランを打った時や、三家(和真)がプロ入り初ヒット、初ホームランを打った時とか......。そういうシーンを目の前で見ていると、暑いなか、浦和(ファームのグラウンド)で頑張ってきた選手が、僕に怒られたりしながらやっていた選手がこうして打つんだな、ってうれしくなります」

 二軍から一軍に上がってくること自体うれしいのだから、それで結果が出れば喜びは倍増するわけだ。ところで、二軍の若い選手を怒る、ということはティーチングの一環なのだろうか。

「怒る、という言葉は適切じゃなかったですね。コーチングで"違う"ってよく言いますけど、僕の場合は"諭す"ですね。少し前に、怒るも叱るもその指導者の感情じゃないか、と思い始めてきて......選手に対して、『なぜそれがいけなかったのか』『なぜそのことをしたのか』というところを聞いて、じゃあ、それに対してどう思っているのか、今後どうしていけばいいのか、それによって周りへの影響はどうだったのか、ものすごく細かく、冷静に諭してあげます」

 怒りの感情で「何してんだ!」って叫んでも、それは大きい声や怒鳴り声、恐怖によって一時的に改善されるだけ。10年、20年、ずっと改善してほしいと思う大村は怒らない。これまで、怠慢で犯したミスに対して1、2回、ポーズで怒鳴ったことはあったが、若ければ若いほど「ビクッとするだけ」とわかってから一切やめた。

「日本ハムの時、まだ現役だった金子誠から言われました。『大村さん、怒ったことあるんですか?』って聞かれたので、『ないな』って答えました。ガーッて腹が立つかもしれないけど、相手に『腹立ってます』って伝えたところで、どうにもならないから。そりゃ、試合でね、インコースにバーンと際どいところにきたらガーッて怒ったことありますけど、指導のなかではないですね。自分が疲れてきますから。それよりも、ちゃんと、本当によくなってほしい」

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