大村巌の若手育成術は「諭して褒める」。
怒るや叱るはコーチの感情だ

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Jiji photo

「新人も才能があってプロに入ってきている。だから我々としては何とか最大限に特徴を引き出したい。だけど、引き出し方が組織の方針と違ったりもするんです。たとえば、"やんちゃ"な選手。『ちょっと目をつぶって、自由奔放にやらせたほうが引き出せる』と我々は思うわけです。でも、組織には『こいつ何だ、態度が悪い』と見られる時がある。そう見られたら、この世界からは消えてしまう。だから、規律正しく管理されたなかで難しいかなと感じた選手には、とくにティーチングが必要だなと」

 一方で新人の場合、それこそ選手自身に聞いた願望、求めるものと、チームとして必要なことが違う時がある。

「アマチュアではずっと4番で、バントなんかやったことない選手が入ってくる。でも、その選手がプロでは1番とか7番を打つことがあるわけです。そうしたら『やっぱりバント練習もやろう。プロの世界では必要だから』って教えることになる。『ゲームで必要になるときがあるからやってくれ』と。その上で、『フリーに打つ時のために、おまえのバッティングをつくっていこう』って言いますね」

 大半の新人選手にはコーチングとティーチングの両方が不可欠であって、丁寧な説明とともにモチベーションを保つための言葉も大事になる。そう考える大村は、コーチとしての自分に対する周りの目も意識する。新人の目はもとより、今回のように自身が新しいチームに迎えられたときも同様だ。

「一歩、グラウンドに入った時、自分がどう見られているか。話しやすそうなのか、ちゃんと話を聞いてくれそうなのか。あるいは、ほしいアドバイスはこの人に聞いたらもらえるのか......とか。これはいつも気になります。要は、話しやすい印象を与えているかなんですけど、いざ話す時には、僕の経験などを伝えながら、逆に『今、何が流行ってんだ?』って聞く時もあります。わからないですからね。なるべく選手と近い言葉を使ったりしています」

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